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漏りくるは翠の雨か書の始末

押し入れの壁に隙間があるのか、吹き降りになるとびっしょり濡れることがある。ビニールをかぶせてはいるのだが、雨がきつくなったら移動させた方が無難だ、と思いつつそのままに。

季村敏夫さんより『森』11号が届く。A3二つ折り両面印刷の新聞のようなもの。季村さんは「過去について」というエッセイで過去について書いている。全共闘運動の高揚の前夜にある組織から離反した。

《思い起こせば、毎日が冬ざれの日々であった。膝を抱え、いったい何を、それほどおもいつめていたのか。憤然と古書店の丁稚になったこと。闇に埋もれる古書の臭い、微細な塵や埃のなかに生涯を埋葬するのだ、隠棲するのだといきりたった》

そうですか、古本屋で働いておられたのですか。昔から左翼崩れが多いと言われている業界だが、団塊の世代にとってもある種のアジールとして機能した面もあるかもしれない。

季村さんの詩集『木端微塵』(書肆山田、二〇〇四年)より、「つくよみ」の1。

  ふるえやまないもの
  古い書物

  部屋のなか
  塵ひとつ目覚め

  草が生まれるのは
  紙が紙自身をふりほどくとき

  一枚ゆれると
  草の粒が飛びたち

  窓をやぶり
  死者の棲む月の光へ

  昭和三十一年、バラード神父は神戸の生田川のほとりで屑拾いを始めた

漏りくるは翠の雨か書の始末_b0081843_20311444.jpg

装訂=間村俊一 写真=鬼海弘雄

『文字力100』の原稿と写真を一昨日、みずのわ出版に渡した。昨日から人名索引をつくっていて、それもなんとか終了。順調に進めば、アンダーグラウンド・ブックカフェ(6/4-6)の書肆アクセス・コーナーで初売りということになりそうである。岡崎氏と黒岩女史の対談、小沢信男さんを囲むトークショーもぜひ聞きたい。
# by sumus_co | 2006-05-10 20:39 | おすすめ本棚

印地打あたりはずれは世のならひ

『彷書月刊』5月号、長谷川郁夫氏の連載にランボーの訳詩が引用されている。小林秀雄訳と堀口大学訳の比較である。長谷川氏は堀口訳を他の誰よりも愛するそうである。『地獄の季節(地獄の一季)』から「一番高い塔の歌」(「最高の塔の歌」)。全体のごく一部分。

  時よ、來い、
  あゝ、陶醉の時よ、來い。

  よくも忍んだ、
  覚えもしない。
  積る怖れも苦しみも
  空を目指して旅立つた。
  厭な気持に咽喉は涸れ
  血の管に暗い蔭がさす。
  (小林訳『ランボオ詩集』創元社、一九五九年、下写真)

  来ないものか、来ないものか、
  陶酔のその時は。

  僕は我慢に我慢した
  おかげで一生忘れない。
  怖れもそして苦しみも
  天空高く舞い立った。
  ところが悪い渇望が
  僕の血管を暗くした。
  (堀口訳『ランボー詩集』新潮文庫、一九八八年版)

長谷川氏が『彷書月刊』5月号に引用している堀口の訳詩は同じ新潮文庫版のようだが、最初の二行はこうなっている。

  心と心が熱し合う
  時世はついに来ぬものか!

さすがにちょっと原文から離れすぎたと思ったのかもしれない。ちなみに原文は下記の通り。パリ第八大学図書館のサイトから引用。

  Qu'il vienne, qu'il vienne,
  Le temps dont on s'éprenne.

  J'ai tant fait patience
  Qu'à jamais j'oublie.
  Craintes et souffrances
  Aux cieux sont parties.
  Et la soif malsaine
  Obscurcit mes veines.

ランボオは彼等の他にも、中原中也、金子光晴、村上菊一郎、鈴木信太郎、粟津則雄、宇佐美斉ら色々な人たちが訳しているので、すべて比較してみると面白いだろう。今は、この二人の訳の大きな相違点

  J'ai tant fait patience
  Qu'à jamais j'oublie.

  よくも忍んだ、
  覚えもしない。

  僕は我慢に我慢した
  おかげで一生忘れない。

この二行についてだけ見てみると、小林の《覚えもしない。》と堀口の《忘れない。》は日本語の意味としては全く逆ではないか? さすがに、この場合はどちらかが間違っているに違いない。

貧弱なウンチクのフランス語読解力で愚考するに、à jamais は「永久に」だから「ぼくは永久に忘れる」、そして文頭のQueを願望の接続詞と考えれば、「ぼくは永久に忘れたい」となり、そうすると続く二行「怖れも苦しみも空へと旅立った」が生きてくるのではないだろうか。

ネットで検索すると粟津訳ではこうだった。これが自然かと思う。

  おれはこんなに我慢した、
  もう永久に忘れよう。
印地打あたりはずれは世のならひ_b0081843_20575518.jpg

# by sumus_co | 2006-05-07 20:58 | 古書日録

出来不出来それもまたよし鯉幟

caloさんより「カロニュース」

■内澤旬子さんのワークショップとトークを開催します。
「本と書斎の解剖図」展(6/6〜24)にあわせての開催です。

とのこと。また、海文堂書店では『海野弘本を旅する』(ポプラ社)刊行記念のサイン会が開催される(6/4)。

『本の手帖』第二号・特集絵入本、アスタルテ書房で購入。創刊号を持っているのでつい買ってしまった。奥付けに《構成者 北園克衛》とある。たしかにこの扉などいかにも北園好みだ。
出来不出来それもまたよし鯉幟_b0081843_1952541.jpg

# by sumus_co | 2006-05-06 19:56 | 古書日録

腹立ちて無口で通す五月晴

勧業館の買い物より、麻生路郎『川柳漫談』(弘文社、一九二九年)。麻生についてネットで調べてみると以下のようなことであった(要約)。

麻生路郎(あそうじろう、本名=幸二郎、1888〜1965年))は広島県尾道市生まれ。少年期に家族とともに大阪に移り住む。大阪高等商業学校予科に入学し、新聞へ投句し川柳作りを始める。卒業後、新聞記者・病院事務・喫茶店等数々の職業を転々とした。大正初期には「川柳」という呼称を用いず「新短歌」で押し通した。『土団子』『後の葉柳』といった川柳誌を発刊。他の“詩川柳派”と呼ばれる人々と共に川柳近代化を推し進める。大正13年『川柳雑誌』(現在川柳塔)を創刊、主幹となり、川柳人協会を創立。自身の川柳観を「句はその人の心であり、十七音字はその人の姿であり、リズムはその人の呼吸である」と語っている。

『川柳漫談』の中では大正十一年に大阪日々新聞に連載された「一ト昔前の大阪見物」が断然おもしろい。喫茶店関係でも、《パウリスタが平倒つて攝陽銀行の莚囲ひになつたなんざア、ざまア見ろと云ひたくなる》とか《八千代座などの中にパウリスタやタコエーや等のカフエーが介在して純然たる松島の千日前をなしてゐる》または《堂々たるパウリスタが蕎麦屋にならうが、銀行にならうがそんなことには頓着をせず昔の儘の姿を見せてゐる。「京與」は腐つても矢張り鯛である》とパウリスタの名が出ていて参考になった。また、風変わりな古本屋も登場する。

《戎橋の停留所の處に、見るも汚ならしい古本屋がある。それが貧乏神と云ふ古本屋だ》《「小雨は半休、大雨来るときは休業」と塗り板に書いてある。/店のすぐ横手に貧乏神が祭つてある。》

その貧乏神のご神体というのは古本屋の主人が、大工からもらった大富豪・光村藻祐の家の床柱を自分で彫った像で、そのデッサンは戸張孤雁がやってくれたと主人は言うのである。その貧乏神をいろんな人が拝みにやって来る。どうして貧乏神など拝むのかというと、

「うちへ来とうくンなはんなやと云ふて拝んでンね」

 だそうである、なるほど。表紙の絵は吉岡鳥平。
腹立ちて無口で通す五月晴_b0081843_20285613.jpg


Mさんより本日も古本メールあり。

《結局今日も勧業館。最終日、一袋500円でもあったらなあ。でも、『詩人の設計図』大岡信ユリイカ刊1000円カバーがクレエで表紙はダリ。残していただき有難うございます。何とか納得しました。》

おめでとうございます!
# by sumus_co | 2006-05-05 20:29 | 喫茶店の時代

諍ひの声の降りくる五月闇

しずかな一日。ナベツマは用事があって出かけた。近隣の家々も留守なのか、いつも賑やかな子供の声もない。午前中、絵を描いて、午後は『coto』の原稿にかかる。もう一本短い原稿を仕上げる。

読んだ本、『Adobe InDesign CS2 マスターブック』(毎日コミュニケーションズ、二〇〇五年)。『sumus』は初めワープロ版下(カシオ)、6号からPageMakerを使っていたが、去年新しいソフトを導入したので、そろそろ使ってみたくなったわけである。

勧業館の買い物から詩誌『あいなめ』24号。表紙画、駒井哲郎。三十六頁で、十六頁刷り出し二枚を中綴じ、表紙別刷りを着けてある。アンカットになっており天地小口は未裁断。むろん活版。こういう雑誌が好きなのだ。
諍ひの声の降りくる五月闇_b0081843_1935736.jpg

Mさんより古本たより。

《やっと勧業館に。4日目ですから、期待は少なめ。
漱石の縮刷版『三四郎 それから 門』16版800円 函付なので。
『吉井勇集』新潮社昭和3年17版700円これはキトラ文庫さんです。
帰り、久し振りに三月書房に寄りました。吃驚したのは、奥のガラスケースの中に『京都画壇周辺』が。定価でしょうね。 》

先日、用美社の岡田氏を紹介したので、さっそく入荷したのかもしれませんね。

すっかり忘れていましたが、何の骨でしょう? の答えはキツネです。
# by sumus_co | 2006-05-04 19:05 | 古書日録