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Paris, 15 Nov. 2008, encore![]() 扉を押して入ると三十代の女性がパソコンに向かって入力中だ。きちんと整理されていながら、あまりに几帳面すぎない、乱雑さも残している。空いた壁にはアフリカの仮面がぽつんと飾られている。リストを見せると、まずアルトーを探し始めた。棚ではなく奥の間から取り出してきた。 「来る前に電話くれました?」 「え? いえ、してませんけど」 どうやら誰かからすでに打診があったようだ。 「ま、どっちでもいいわね。少し傷んでますけど、これです」 ・ARTAUD Antonin, Pour en finir avec le jugement de Dieu, K éditeur, 1948 JJPに集中すると言いながら、ここではKエディター版のアルトー『神の裁きと訣別するため』をリストの第一に挙げていた。出されたのは枡形の本。ひと目、表紙の文字が気に入った。背が縦に割れて背表紙の一部が剥がれそうになっているのが問題だが、なんとかなるだろう。 『神の裁きと訣別するため』はラジオのための作品でその詳細については鈴木創士さんの河出文庫版解説を読んでもらうのがいちばんだが、下記でアルトーの朗読の一部が聞ける。You Tube には何でもあるものだ。 Antonin Artaud ポヴェールの自伝によれば、Kエディターはラ・ユーヌ書店のベルナール・ゲールブラン(Bernard Gheerbrandt[または Gheerbrant], librairie de La Hune)が中心になって設立した出版社のようである。アルトーの『ヴァン・ゴッホ』や『Ci-git』も刊行しているし、雑誌『Revue K』も出していたらしい(1-2号がアルトー特集)。 女性は他の本を探しに地下室へ下りて行った。表の均一台に張り付いていた二人組の男性が店内を物色に入ってきて、ざっと棚を眺めた後で、店主のテーブルの前にやってきて、机の上にポンと置かれた『神の裁きと訣別するため』を見た。一人がそれを手にとって何かとなりの仲間につぶやいた。「へえ、これがアルトーのアレなんだ」とか何とか言ったのかもしれないが、聞き取れなかった。会話はフランス語だったが、アメリカ人かもしれないなと思って知らぬ顔をしていると、女性が戻ってきた。彼らの代金を受け取って(二人とも三冊五ユーロを買っていた)、やはりレジスターではなく、テーブルの抽き出しのあたりに置いてある銭箱から釣りを取り出して渡しながら「サンキュー」と言った。彼女もアメリカ人だと思ったにちがいない。ただ、そう言われた男性はちょっと微妙な表情をしたので、あるいはアメリカ人ではなかったのかもしれない。服装がどうもフランス人らしくなかった。 ![]() 書庫から出してくれたのはコクトー『カルト・ブランシュ』にジョイスの『ディーダラス』。ともに買えないと書いたエディション・ド・ラ・シレーヌ版。一冊くらい欲しいと思って探しておいた。他に、ジョルジュ・ペレック『物の時代』、ガスカール『街の草』『箱舟』である。『ディーダラス』は同じ版が二冊、一冊はかなり傷んでいるが半額だ。もちろん半額の方にする(これも悪い癖、いい方を買わないと!)。ペレックもペーパーバックの二種類(版元は別)を出してきた。どちらも事前に調べていたものの倍以上の値段30ユーロだった。これはひょっとして均一で見つかりそうだと思って(見つからないからこの値段なのだろうけど、いかにも見つかりそうな風情)パスすることに。 もう一点、一階の棚にあったトラッサールの『ロシアの大地の情景』を追加して、計算してもらう。アルトーが傷んでいる分を値引きしてくれて、それでもそこそこの買物になった。財布から現金を取り出して数えてみると15ユーロ足りないことが判明。仕方ないので15ユーロのトラッサールは棚にもどした(版元サイトで見ると14,50ユーロじゃん!)。 品切れが残念だったのはヴィーニュ書店が発行したエディション・ド・ミニュイの刊行書目録。ネット上では五百部限定で夏頃に刊行となっていたから、売り切れたようだ。住所を書いてくれ、見つけたら知らせるから、とここも熱心である。「日本だけどいいの?」「もちろん、問題ないわよ」というので住所とメアドをメモした。 十月にミッシェル・ビュトールが来日していて、ロブグリエやサロートらヌーボーロマンの作家たちについて語った短いインタビューが朝日新聞(2008年10月18日)に載った。そこでこう彼は語っていた。 《ヌーボーロマンは運動ではなかった。代表もいなければ宣言も集会もない。めいめいが別々に書き、共通点はスタイルの実験性や細部の描写だけ。ほかには多くがミニュイ社から出版されたことくらい》 ということでミニュイ社の目録(第一部、1942-67)が欲しくなったわけだ。まあ仕方がない。所持金もなくなったことだし。本当は胴巻きにもう少し入ってはいたが。 サン・ミッシェル大通りへ出て新刊書店のジベール・ジョセフへ。改装したようで、一階のレジが木目調で美しくなっていた。階段を登りながら見ていると、ほとんどの人はカードで払っている。かつては何でも小切手で払うフランス人だったが、今は本一冊買うにも電車の切符を買うにもカードを使うわけである。ただし、小生が回った古本屋でカードを出している人間はいなかった、というかカードの読み取り機もなかったし、現金主義のようである。 ![]() 文学コーナーで日本人作家の棚をざっと見る。狭めのひと棚分あることはある。漱石、鴎外、荷風あたりから、とくに戦後作家は、多和田葉子だとか、こんな人までという翻訳が並んでいて、ちょっと驚かされた。多少の時差はむろん感じるが、悪くない紹介である。中国は日本よりも棚を広く取っていたが、翻訳書では圧倒的に英米作品が多かった。 ジベール・ジョセフは古本や見切り本も売っている。店頭は0,50ユーロから均一函がいくつも並んでおり、2ユーロあたりが良さそうだった。 ![]() 物乞いはやはり目立つ。犬連れが多いのでついホロリとしてしまう。 ![]()
by sumus_co
| 2008-11-30 15:01
| パリ古本日記
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