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野村守夫![]() 『文藝』(河出書房、一九四八年一〇月号)。表紙画は小泉清。小泉八雲の三男。小泉清については洲之内徹が『ゼザンヌの塗り残し』(新潮社、一九八三年)にかなり書いているし、回想と評伝集も出ている。 表紙にもわざわざ明示してあるように、この号には、志賀直哉が太宰治の心中に関して、自らの発言についての経緯を執筆した「太宰治の死」が載っている。これを素直に読むと、志賀直哉はまったく単純軽薄な男である。ほとんどロクに読みもしない太宰を座談会で貶す。織田作之助も貶す。そして彼らが死ぬと、自分のせいではないかと思ったりする。そんなわけないだろう。文中に広津和郎(志賀と親しかった)が《太宰治君は何の道、生きてはゐられない人だつたと云つて、私を慰めてくれた》とあるが、広津はちゃんと物事を見ている人だ。 挿絵は野村守夫だけが担当している。何点かあるうちで、これが好きだ。昭和二十三年という感じはまったくしない。 ![]() 野村守夫は一九〇四年広島市生れ。川端画学校で藤島武二に師事し、二七年に二科展に初入選している。三八から三九年に中国北東部を訪れ、そこから題材を得て描いたのが「ハルビン太陽島」(一九三九年、二科展出品)。二〇〇六年に吉林省長春市で発見されてニュースになった。戦後は二科の幹事にまで昇っている。七九年歿。 洲之内徹が野村について何か書いていないか、探して見た。こんなときに『sumus』5号の索引はじつに便利。『絵のなかの散歩』(新潮社、一九七三年)所収の「靉光「鳥」」に一度だけ名前が出ている。菊地芳一郎『靉光』(時の美術社、一九六五年)の出版記念会が上野公園の中の貸席で開かれた。 《鶴岡政男、寺田政明、野村守夫、吉井忠、それから丸木位里、赤松俊子夫妻などの顔が並んでいたのを思い出す。井上長三郎氏は勿論いただろう。南天子の青木さんも来ていた。その人たちの前で、靉光の奥さんが挨拶をして、 「青木さんや洲之内さんのお蔭で、靉光もどうやら世の中に出るようになりまして……」 と言ったので、私は面喰らい、同時にひどく恥かしい気がした。 私はなんにもしていない。青木さんは算盤を無視して立派な遺作展を開き、実際それがその後の靉光熱のきっかけになっていると思うが、私はただ「鳥」の絵が欲しくてうろちょろしていただけである。》 この少し前のところにこういう文章がある。「鳥」の絵に初めて出会ったとき。 《絵を見るなり、 「この絵は欲しいなあ」 と思った、それだけである。(中略) 一枚の絵を心(しん)から欲しいと思う以上に、その絵についての完全な批評があるだろうか。》 いわゆる「盗んでも欲しい絵」。完全かどうかは別にして批評のひとつの形には違いないと小生も思う。また、後に、洲之内が「鳥」の所有者になってから、それを土方定一に見せた。土方は、当時、鎌倉の近代美術館の館長。 《土方さんは鎌倉の美術館で買いたいと言い、 「ボッシュだってこのくらいのもんですよ」 と言った。》 これもちょっと凄い発言。土方はボッシュの専門家なのだから。小生もこの「鳥」は何度か実物を目にしたし、ボッシュもベルギーやマドリッドで見ているが、同じ目線で論じるとは思いもよらなかったなあ。 なお昨日の『婦人公論』表紙画の作者は岡田謙三である。この翌年(一九五〇)にはニューヨークへ渡り、彼の地で「ユーゲニズム」を標榜、一家を成した。
by sumus_co
| 2008-09-03 21:36
| 古書日録
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