検印紙ばかりを、ちょど切手のように、集めたスクラップブックである。某氏に頂戴した。スクラップ本体に280枚、173枚糊付したノートブックの切れ端三枚が挟んである。同一人のものだとれば、たぶん初めは思い立ってノートに貼っていったのだろうが(剥がし方が雑なので)、そのうち、ちゃんときれいにはぎ取って切手用のスクラップブックに並べたのかもしれない。
一部テーマ別になっているところもある。フクロウと鳥の図柄がけっこう多い。丸善、新紀元社、日独書院、改造社、白水社、羽田書店、金星堂、修文社、山と渓谷社、人文書院、大観堂、角川書店、筑摩書房……。他には、花や植物もかなりある。意外なのは壷。青磁社、三省堂、芸艸堂、揚子江社、蛍雪時報社、新英社……。動物、人物、山、建物、器物(ランプなど)、装飾模様などなど。一社で何種類も使っているところもあれば、ずっと同じものを使う版元もある。社名の記載なしも多い。
奥付検印紙日録も参照されたし。
ところで、数えているときにこの検印紙を見つけた。谷中安規の絵柄に似ている。先日のレッテルの例もある。『谷中安規の夢』(渋谷区立松濤美術館、二〇〇三年)には見えないようだ(?)。東宛書房は昭和九年から十八年までの出版物が確認できる。白鳥省吾の著書が目立つが、教育関係から時局的なものまで、いろいろ出した版元らしい。
「佐藤」印なので『学芸随筆第3巻 匠房雑話』(佐藤功一、一九三八年)か『各教科の自己法則性と教授の要諦』叢書、第1-5巻(佐藤熊治郎他、一九三六年)だろうか。
と思ったら、さっそく谷中に詳しい某氏よりご教示をいただいた。
《本は佐藤正彰訳の「ボエームの王」で、「佐藤」の印鑑はこの訳者のものでしょう》
ということだ。ただし某氏は谷中安規作であるという点については疑問視している。その理由は以下の通り。
《安規に裸婦がこのような座り方をしている図は幾つかありますが、その際顔の向きが真横にはなっていない、安規が蝶を描くときは翅をはっきりと4枚描くという相違点があります。とはいえ、全体の雰囲気は似通っているし、東宛書房の住所(麹町区六番町)が、内田百間の住所(麹町五番町)と近いことも気になります。残念ながら、安規の作か否か、今のところ確実な証拠は見つかっていません》
絵柄としてはいいものだし、否定し去ってしまうのも惜しいが、誰か他の作家である可能性も充分考えられる。とくに囲み線の描き方が谷中安規らしくないような気もする。
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先に紹介させていただいた牧野氏が発見された「上海/内山書店」のレッテルは神田の
内山書店にも保存されていないというお報せをいただいた。貴重な資料である。