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歴史のかげにグルメあり

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黒岩比佐子さんの新著『歴史のかげにグルメあり』(文春新書)を読了。幕末明治の十二の事件にまつわる十二の美食(?)物語。目次はこちらに。
古書の森日記 by Hisako

気になったところに付箋をつけながら読んだ。

第三章 明治天皇(1)
明治六年、天皇がナイフやフォークの正式な使い方を練習した。築地精養軒主人・北村重威から西洋料理のテーブルマナーを学んだのである。村上は岩倉具視の側要人だった人物で明治五年に「築地精養軒」を創設していた。開業当時から、フランス人チャリヘスを料理顧問に置いて本格的なフランス料理を出した。初代料理長の西尾益吉、続いて鈴本敏雄、秋山徳蔵、関塚喜平ら名コックと呼ばれた人々を輩出している。

第五章 大倉喜八郎
大倉が満州ハルビンのホテルで食べたパンの美味に驚き、帝国ホテルにスカウトしたパン職人。ロマノフ王朝の製法を受け継ぐアルメニヤ出身のイワン・サゴヤン。発酵種にホップを使うのが特徴だった。サゴヤンが焼いた「ガレット」と呼ばれるフランスのパンが現在のメロンパンのルーツになった、という説もある。
[ウンチク註;現在ふつうにガレットと言えば、そば粉のクレープのことだが、ここで言うのは「王様のガレット galette des Rois」またはエピファニーというケーキである。なかにそら豆を入れておき、当った者が一日王様になる、などのローマ時代以来の風習あり]

第六章 ニコライ皇太子
極東漫遊中のニコライは大津で巡査津田三蔵に斬りつけられて負傷した。東京行きを中断、神戸港に停泊中のロシア艦アゾヴァ号にもどり、帰国することになった。明治天皇はあわててニコライに面会するために神戸へやって来た。そして異例中の異例にもニコライの招きに応じてアゾヴァ号の艦内でランチをともにしたのである。緊張しただろうねえ。しかしニコライはゲイシャと酒が大好きなおぼっちゃんで、けっこう良い奴だった。それなのに……。

第八章 児玉源太郎
日露戦争を勝利に導いた男。旅順陥落後、祝勝会でシャンパンを浴びるほど飲んで、外国武官たちからシャンパンをかけられた。ひょっとしてシャンパンシャワー日本人初体験か。ところが実は、そのロシア軍から奪ってきたシャンパンなるものはシャンパンではなく、苹果水(りんごすい)だった。「乃公(わし)も一杯食はされた」と児玉は大笑したという。
[ウンチク註;苹果水はシードルのことだろう。林檎から作るアルコール2〜8パーセントの飲料、ノルマンディの名物で、六世紀ごろにスペインから持ち込まれたという。フランスでよく飲んだ記憶がある。ちなみにガレットもノルマンディやブルターニュの名物である]

第九章 村井弦斎
日露戦争でのロシア兵捕虜は七万人を超えたというが、待遇はかなり良かった。将校ともなると、毎日、白食パンにバターと紅茶、ビーフステーキ、シチュー、ローストビーフ、菓子、果物、などなど、そして酒も飲めたし、行動制限もゆるやかだった。明らかに一般の日本人よりかなり上等な食事が保証されていた。
[ウンチク註;ちなみに現代の日本で罪を犯した米兵は横須賀刑務所で服役するが、ステーキや差し入れをはじめ、日本人およびアメリカ以外の外国人受刑者よりも、ずっと優遇されているとか]

第十二章 幸徳秋水
菜食主義を貫こうとして貫けなかった男。明治三十八年に巣鴨監獄で五ヶ月拘禁されたが、そのときのメニューはこうだった。朝は溝のドブをすくってきたような味噌汁、夕飯は沢庵に胡麻塩。昼が御馳走で、豆腐汁、油揚と菜、大根の切干、そら豆、うづら豆、馬肉、豚肉など。《豚肉などといへば結構に聞ゆれど、実のところ菜か切干かの上に小さな肉の切が三つばかり乗つてゐるまでのこと》。
[ウンチク感想;「くさいめし」の証言だけ集めても一冊できるなと思う]

面白くてタメになって、すらすら読める一冊。ウンチクをかたむけるにもってこい也。
by sumus_co | 2008-08-20 22:33 | おすすめ本棚
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