舟橋聖一『悉皆屋康吉』(創元社、一九四五年五月、装幀=佐野繁次郎)のジャケットと扉。この本には初版が二種ある。昭和二十年五月二十日発行と同年十二月二十五日発行。後者の「あとがき」によれば、舟橋が小説を書き上げたのは昭和二十年の二月、すぐに印刷にかかり、空襲のなか奇跡的に製本まで終わったのだが、五月二十五日の空襲によって製本屋にあった二千部が焼けてしまった。紙型も焼けた。その前日に日配(日本出版配給株式会社)に届けた一千部だけが助かり、なんとか市場へ出た。
戦争が終わった後に再版したが、原稿は初版のまま一字一句も手を入れなかった。これが十二月初版で奥付によれば一万部刷られている。ということは、単純に五月初版の十倍である。装幀はまったく同じように見えるけれども、どうやら十二月版は五月版から複写したもののように思える。すこし線が太ってしまっている。版面は舟橋の言葉通りまったく違う。図は五月版、十二月版の順。十二月版は紙質がきわめて悪い。
五月版は奥付が見返しの遊び紙に貼付けてある。これは異例のやり方だ。発行日の予定がなかなか立たなかったためかとも推測できる。2008年2月刊行『
古本倶楽部200号記念別冊・お喋りカタログ』に表紙と同じデザインのカバー(桶などの絵がない)が付いているという五月初版本が出ていたことは既報の通り。これが、謎なんです。
じつは、さきの下鴨神納涼古本まつりで初日と五日目とに、それぞれ一冊ずつ五月初版を都合二冊手に入れた。これってけっこうスゴクない?