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下鴨納涼古本まつり2008 その4

下鴨納涼古本まつり2008 その4_b0081843_19453665.jpg


毎年、今年はどこのテント(店)が一番良かったか、というのが常連客のなかで話題になる。吉村大観堂が良かったというのが古本ソムリエ氏の判定のようだ。また「古本聖人」と呼ばれている(畏れ多いネーミングだが、お姿を拝見すると、まさにシュミセンにお住まいのような)御方によれば、梁山泊のテント裏の平台(上の写真)だとの御宣託らしい。

たしかに小生もどちらの店でも買物ができた。ただ個人的には萩書房2がイチバン。三冊五百円の台にグラシン紙で包装された一群の書物が固まっていた。後で聞くと同じ人の持ち物で、グラシンも旧蔵者が掛けたものだという。本を大事にした古本者に違いない。ただし、舟橋聖一、石川達三、吉川英治というラインナップである。これはちょっと困る、ということで三冊五百円に放出されたわけだ。

そこから吉川英治『貝殻一平』上巻(先進社、一九二九年、装幀=河野通勢)を抜く。たしか下巻を所持しているはずだが、もっと傷みが激しい。これは汚れてはいるものの、状態はまずまず。表紙、見返し、扉、いずれも多色木版画。函がないのは値段が値段だから仕方がなかろう。河野通勢の装幀本のなかでも傑作の部類。これ、今作ったら大変なモンだ。

下鴨納涼古本まつり2008 その4_b0081843_2018984.jpg
下鴨納涼古本まつり2008 その4_b0081843_20182034.jpg


÷

本日届いた『日本古書通信』949号で、前号掲載の拙稿「京都の出版社(戦前篇)」の記述に不備があったことが、若狭邦男氏によって指摘されている。探偵雑誌『ぷろふいる』について「戦後の同名雑誌は熊谷の発行ではない」と書いたのだが、そうではない、戦後にも奥付に名前が出ているよ、というご指摘である。これを書いた根拠は『sumus』六号(二〇〇一年)掲載の熊谷市郎氏へのインタビュー。そこで熊谷本人が名前を譲っただけで関係ないと断言している。

しかしこういう個人の記憶というものは信頼すべきかどうか、判断が難しいこともある。若狭氏はむろん『sumus』の定期購読者であって、そのインタビューも視野に入れておられる。探偵雑誌などの蒐集研究にかけてはおそらく現在もっとも実証的に行われている方の一人である。氏によれば、戦後五冊発行されている『ぷろふいる』のうち、再刊第一号の奥付に熊谷市郎の名が出ているという。一方、熊谷氏は『sumus』六号でこう述べている。

《戦争最中にね、わしゃこっち[引用者註・神戸]に逃げてきたけどその時分に金、あらしまへんやろ。ほんでもう権利ゆずったん。そやさかいもう『ぷろふいる』ゆう名前は私は使えまへんわ。ほんでかもめ書房いう名前で『小説』ちゅう雑誌をやったん。》

《戦争最中》がポイントだ。とは言うものの、インタビュー全体を通して、熊谷氏の記憶も絶対に確かだとは言い切れないニュアンスがある。奥付に熊谷氏の名前が出ているなら、熊谷氏がまったく無関係だと言ってしまうことも無理があろう。「戦後の同名雑誌は熊谷の発行ではない」と断定的に書いてしまったのは不用意だったと反省している。ただ、これによって若狭氏の実証的な調査による『ぷろふいる』およびその後継誌『仮面』『別冊仮面』(これらの発行人にも熊谷の名が見られる号があるという)他の発行状況が公表されたことはもっけの幸いだった、かもしれない。
by sumus_co | 2008-08-14 19:57 | あちこち古本ツアー
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