「カフエーパウリスタ大阪道頓堀コーヒー店(其一)」と題された絵葉書を入手した。おそらく新資料だろう。これは(其一)とされているが、(其二)は以前から持っていた。そちらは店内の様子を撮影したもので、満員の客がなごやかにコーヒーをすすっている。どうやら(其三)以下もありそうだ。これまでは、拙著『喫茶店の時代』(編集工房ノア、二〇〇二年)にも掲載しているように、織田一麿(おだ・かずま)のリトグラフ・シリーズ『大阪風景』のなかの一枚「道頓堀」がパウリスタを彷彿とさせる貴重な絵画だった。
この版画の出版は大正六年(一九一七)。ただし、織田は明治四十三年から大正三年まで大阪で中山太陽堂の広告部などに勤めていたので、そのころのスケッチをもとにして制作したようである。とすれば、パウリスタ道頓堀店開店の大正二年にきわめて近い絵柄だと考えてもいいかも知れない。
ただし、大正九年の雑誌『道頓堀』二十号に載っているパウリスタの挿絵もやはり織田の描く店構えとほぼ同じなのだ。ということは、「生粋コーヒー店」の表記や地味な雰囲気からしても(時代が下るにつれて大衆食堂のようになって行った)、上の絵葉書の方がより古い、おそらく開店当初の店舗なのではないか、そんな気がしないでもない。気になるのは「コーヒー」とヒを音引きしていること。大正九年の挿絵は「コーヒ」。年代を特定できないのがじつに残念だ。