「近畿を中心とせる名勝交通鳥瞰図」(大阪毎日新聞、一九二六年四月五日)。プラトン社の雑誌『苦楽』『女性』の広告にひかれて購入したものだが(さすがに200円ではありません)、この左手にずっと長く(90cm)近畿一円のパノラマ地図が展開している。その地図の製作は
吉田初三郎である。吉田は明治十七年京都生れ。友禅図案師の丁稚から京都三越図案部の職工を経て、日露戦争に従軍の後、東京の白馬会、関西美術院で学び、パリ帰りの鹿子木孟郎(かのこぎ・たけしろう)からデザインの重要性を教えられデザイナーの道に進んだという。大正時代、観光産業の台頭期に俯瞰的な名所絵図を量産したことで知られている。
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佐野繁次郎のトークのための準備をしていて興味深い発見があった。それは……ないしょ(6月1日のトークでお話します)。が、そのことに関して、横光利一の小説『家族会議』(創元社、一九四二年十四版)を読む必要ができたので、ざっと目を通してみたが、けっこう面白かった。初出は『大阪毎日新聞』(一九三五年八月〜十二月)。「純粋小説論」を同年四月に発表したところだから、純文学であって、しかも大衆文学なみに面白いもの、すなわち純粋小説のお手本を示す意気込みだったのかも知れない。
大阪の北浜を牛耳る仁礼文七という大物仕手筋をめぐる愛憎の物語。恋愛は四角関係か六角関係ぐらいに入り乱れ、なにがなんだか分からないが、文七の仕掛けた大仕手戦によって登場人物が振り回される。まためまぐるしく変化する舞台装置。芝の紅葉館から、霧の軽井沢、船場の旧家、北浜の豪邸、御堂筋の美術倶楽部、六甲のゴルフ場、お嬢さまがボクスホールの外車でバンバンぶっとばすし、東京との往復に飛行機は使うし、なんともセレブでバブリーな小説。
大阪については佐野繁次郎があちこち案内してその情報を提供したようである。喫茶店「蝶屋」だとか料理屋の「魚利」とか、みんな実名で登場する。「蝶屋」は大阪の千疋屋とでもいうか、果実店・フルーツパーラーで、林長二郎(長谷川一夫)が経営していることで有名だった。大阪弁もまずまず。これも佐野の指導があったか(?)。大阪小説としてけっこう重要かもしれない。