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アクロイド殺害事件![]() アガサ・クリスティ『アクロイド殺害事件』(大久保康雄訳、創元推理文庫、一九六八年一八版、カバー装画=杉浦康平)。原作は一九二六年刊行でクリスティの六作目である。三年後の一九二九年にすでに邦訳が出ている。アガサ・クリスティー作品データベースによれば、『アクロイド殺し』(松本恵子訳 、平凡社世界探偵小説全集)がそれで、 限りなき魅惑 赤木春之訳 紫文閣 アクロイド殺し 松本恵子訳 雄鶏社 アクロイド殺し 松本恵子訳 ハヤカワ・ポケットミステリ と続いた後にこの大久保康雄訳が登場する。以下も、田村隆一訳『アクロイド殺し』(ハヤカワ・ミステリ文庫、一九七九年)を含め、多数の翻訳が出ているので詳しくは上記サイトにて。これ『星の王子さま』みたいに独占翻訳権を取っていれば、凄かったろうが、そういうことはしない方がいい。多様な翻訳があった方がいいのだ(by 四方田犬彦氏)。著作権の過保護はよくない。 ÷ 「目には目を」という言葉、いや法がある。古代のハムラビ法典が元になっているわけだが、『聖書』の旧約に三カ所(出エジプト記、レビ記、申命記)、新約(マタイ)に一カ所登場している。旧約からレビ記を引用してみると以下の通り。第二十四章。翻訳は大正三年刊の米国聖書協会版『旧新約聖書』。 20 挫(くじ)きは挫き 目は目歯は歯をもて償(つくの)ふべし人に傷つけしごとく自己(おのれ)も然(しか)せらるべし 21 獣畜(けもの)を殺す者は是を償ふべく人を殺す者は誅(ころ)さるべきなり BibleGateway.com の英訳は次のごときものなり。 20 fracture for fracture, eye for eye, tooth for tooth. As he has injured the other, so he is to be injured. 21 Whoever kills an animal must make restitution, but whoever kills a man must be put to death. ヴルガータ(Hieronymus Vulgata)ではこうなっている。 20 fracturam pro fractura oculum pro oculo dentem pro dente restituet qualem inflixerit maculam talem sustinere cogetur 21 qui percusserit iumentum reddet aliud qui percusserit hominem punietur 「percusserit」は「打つ」という意味だが「殺す」にもなるようだ。同章17節には 17 qui percusserit et occiderit hominem morte moriatur (人を殺す者は必ず誅さるべし) ともある。和訳は英語からの重訳だからか、微妙に誤訳というかニュアンスが違っているのが分かる。英訳も上の例はラテン語に忠実な方だが、意訳気味のものも少なくない。目に対して目を償うということは、相応の報復というか賠償を求める意味で、目を傷つけられたらからといって相手を殺すことや、一人の同族の者が殺されたといって相手の部族を皆殺しにする、というようなことはしてはならない、という意味であろう(たぶん)。 これがマタイになるとかなり違った考え方になっている。39節は聖書のフレーズとしてはもっとも有名なものの一つだろう。 38「目には目を、歯には歯を」と云へることあるを汝ら聞けり。 39 されど我は汝らに告ぐ、悪しき者に抵抗(てむか)ふな。人もし汝の右の頬をうたば、左をも向けよ。 38 audistis quia dictum est oculum pro oculo et dentem pro dente 39 ego autem dico vobis non resistere malo sed si quis te percusserit in dextera maxilla tua praebe illi et alteram(Evangelium secundum Matthaeum) 「percusserit」はまさに「打つ」という意味で使われている。旧約と新約の決定的な相違がここに象徴されているように思う、と偉そうなことを言いながら、旧約がどうしても通読できないのであった。
by sumus_co
| 2008-04-23 22:08
| 古書日録
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