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中崎、そして金時鐘

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武藤良子さんの個展、最終日になってしまったが、見ることができた。itohen は微妙に駅から離れているのだが、道中のそこここに、古い家屋や店舗などが残っており、散策していても飽きない町だった。武藤さんのブラック・アンド・ホワイトのデッサンは繊細で大胆。具象と抽象の間(あはひ)をこじ開ける感じが好きだ。

itohen はお洒落なブックカフェで、もう四年もやられているとか。古本も少し並んでいた。眺め入っているとお茶を出してくださった。ごちそうさま。一冊買いました。

itohen から真っ直ぐ南下。地下鉄谷町線の中崎駅の手前を路地に入る。第二会場の雑貨店 cocoa を探していて書肆アラビクを見つけたが、開いていない(今、ブログを見ると、今日の開店は遅くなると書いてある)。狭い路地奥に若者向けの雑貨店やカフェが点在する。 cocoa さんでは水彩小品四点展示あり。

÷

谷町線で谷町九丁目まで。「シンポジウム・言葉のある場所II『朝鮮詩集』再訳(岩波書店、2007)を記念して 金素雲と金時鐘」の会場に一時ジャストに到着。開会は十五分ぐらい遅れた。主催者の挨拶がしばらくあって、四方田犬彦氏の講演が始まる。

四方田氏はまず、東西の例を引きながら「別の言語に移したときに残っているエッセンスこそが詩(文学)のエッセンスである」「翻訳はされるべきであり、できるもの」という論旨を展開した。更に金時鐘氏の『朝鮮詩集』再訳に関して、再訳する理由を「誤訳・削除・情報不足・言語の変化」の四つに分類して、その必要性を説いた。

日本語の書き言葉は明治時代に作られたもので、フランス語と比較すればまったく新しい言葉である。そのために変化が激しい。よって同一の作品であっても多様な翻訳が可能だし、実際に多数の異なる日本語訳が刊行されている作品がある、とも。

最後に、金時鐘氏が若い頃の詩「遠い日」で使っている「唖蝉」(おしぜみ)という言葉が金素雲の『朝鮮詩集』からきていること、そしてその「唖蝉」という日本語訳が金素雲の誤訳であることを指摘しつつ、誤訳ではなく意図的に強い言葉を使って訳したのだろうと述べた。「唖蝉」は鳴かない蝉(メス)の意味。

このあたりでかなり予定時間をオーバー。人種と母国と言語の喪失についてハンナ・アーレントとジャック・デリダを金時鐘氏に結びつけたところで終了。休憩。ひとつだけ、四方田氏の勘違いを挙げると「対自核」はキング・クリムゾンではなくユーライヤ・ヒープの曲である。トイレですれ違ったので、よほど耳打ちしようかと思ったが、止めておいた。

つぎは『朝鮮詩集』再訳が連載された雑誌『纜』の同人を中心にしたリレートーク。金素雲『朝鮮詩集』の原詩を見つけるのに苦労した丁海玉さんの話、ベンヤミンによる翻訳が言語の可能性を押し広げるという意見を述べた細見和之氏、朝鮮戦争下に東京の南部(工場労働者が多かった)で発行されたガリ版の同人雑誌が百何十種類もあったことなどを語った山本唯人氏など。

最後に金時鐘氏が、自作を、日本語を、少年時代、青年時代を語り、日本語のもつ抒情性の素晴らしさとともに、抒情ですべてを包み隠してしまう怖さを語り、小野十三郎ゆずりの抒情否定で締めくくった、というか、タイムリミットになって、終了。

話はいずれも面白かった。しかし四時間たっぷりあったにもかかわらず、すべての話に時間不足を感じさせたのは惜しい。プログラムをもっと絞り込むべきだったか、あるいは、事前打合せと進行をキッチリと行うべきだったかもしれない。
by sumus_co | 2008-04-20 22:35 | あちこち古本ツアー
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