佐多稲子『時に佇つ』(河出書房新社、一九七六年)。先日の吉田健一本で調べたときに、これも装幀・松田正平だったと知り、ネットで買った。安かったので状態が心配だったが、ちゃんと帯もついており、並のやや上といったところ。章扉のカット版画は芦川保。
《特高室へ出されたとき、お茶をいれるということがある。たいてい留置人が自分でお茶をいれて、先ず主任からという順で刑事たちに配り、そして自分も飲む。私はそれをする気がなかった。私は特高室でわざと外来者の態度で畏まっていた。刑事たちにお茶を出さねば自分が飲めないなら、飲まずにいよう。私はわが家から持参した弁当を特高室で食べるときもお茶をくまなかった。そして私は、刑事のくんでくれたお茶に礼を云って飲んだ。》
佐多が昭和十年に逮捕されたときの描写である。佐田によれば、当時、組織は解散状態で、彼女は特に非合法的な活動もしていなかったにもかかわらず逮捕されたのだという。このお茶汲みなどは映画のワンシーンに使うとリアリティが出そうだ。それにしても「私」の多い文章である。
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京都市勧業館での即売会(5/1〜5)の目録が届いた。いつもは気を入れて見ないのだが、今回はわりあいにゆっくりと点検した。
6279 日本に於ける最初のロシア画覧会 二〇、〇〇〇
これは……! 『大正期新興美術運動の研究』(スカイドア、一九九五年)の142頁に図版として出ているものと同じとすれば、「日本に於ける最初のロシア画展覧会」が正しく、一九二〇年に東京市京橋区南伝馬町の星製薬のビルの三階で開催された。この展覧会は関西にも巡回しており、そのときにも、これとは別の一枚ものの目録が作られている。以前、ある会で見せてもらったが、それもかなりの珍品だ。
他にもいろいろあって楽しめた。これは抽選なので、そう急ぐ必要はなく、どれを注文するかはまだ決めかねている。