
『坂口安吾研究I』(冬樹社、一九七四年二刷)を読んでいる。なかなか面白い。驚いたのは坂口三千代の回想で安吾の通夜に来た石川淳がさめざめと泣いたというくだり。
《お通夜の晩は尾崎士郎さんも檀さんも、小林秀雄さんもお見え下さいましたが、きつい表情でいらしたので私の心はおびえてまいりました。私が大切なお友達をとりあげてしまったような気がしてとてもおこっていらっしゃるのだと思ったのです。でも、それはやがて違っていることがわかりました。石川淳さんが伊香保からお見えになって、お帰りの間ぎわ、坊やを抱かれてさめざめとお泣きになりました。それはもう、とめどなく涙を流されました。それをみているうちに私のおびえた心がだんだんにときほぐれ、ただただ惜しんで下さるお気持ちがひしひしと胸にこたえてまいりました》(「亡き夫へ」)
『中央公論』昭和三十年四月号に発表された文章。石川淳の年譜によれば石川は「坂口安吾を悼む」という談話を『別冊文藝春秋』二月号に発表しているようだが、談話のせいか、ここには収録されていない。