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金子光晴詩集

金子光晴詩集_b0081843_200224.jpg


村野四郎編『金子光晴詩集』(旺文社文庫、一九七四年、カバー=深尾庄介)。同じ旺文社文庫の自伝『詩人』(旺文社文庫、一九七五年)を久し振りで読み返した。金子には中公文庫に『どくろ杯』『ねむれ巴里』『西ひがし』という自伝三部作がある。三十代の頃にむさぼり読んだ。あるとき知り合いの古本屋の主がそれを知ってひとこと。

「金子光晴は青春時代に読むもんやろ」

おっしゃる通り(文学はオクテなんです)。金子自身が万年青年だ。『詩人』は中央公論社のものよりも、当然ながら省略も多いが、それだけに金子の人生が一望できる簡潔さがある。今回、読み返して、金子の一生が親に捨てられて(養子に出されて)拗ねた子供のヤケッパチ魂で貫かれているのがよく分かった。

収穫は百田宗治について。百田が登場しているのをすっかり忘れていた。金子が最初のヨーロッパ滞在から戻り、『こがね虫』を出版した後、同時期の新しい詩人たちにふれたなかにこうあった。少し長いが、メモ代わりに引用しておく。[ ]内は引用者註。

《その多くの新人をひきはなして、諸輩の上に出ることに成功したのは、やはりデモクラシーの時流に乗った若い百田宗治であった。
 百田のことは、それまでにも富田[砕花]の口からいつも聞かされつづけていた。彼はまだ、故郷の大阪にいて、大鎧閣という本屋につとめながら、詩を書いていた。ストリンドベリイの研究をしていた藤森という男と二人で、雑誌を出していた。藤森が死んで、百田がいよいよ東京に出てくるということになった。『ぬかるみの街道』[大鐙閣、一九一八年]という詩集が出て、はじめて僕は、百田の詩をよんだ。百田が東京へ出てくるということは、デモクラシー陣営にとっては心づよいことだった》

《上京してきた百田を、僕は早速見に行った。百田の妻しをりさんに会ったとき、二人の客あしらいのよさに、いい気になって、初対面の家に十二時過ぎまでしゃべって、電車がなくなり、巣鴨から牛込までてくてく歩いてかえった。
 百田のはなしぶりが、客観的で、乾いていて、声が時計のセコンドのようにきこえるので、
「君は、六角時計みたいな男だな」
 というと、彼は、すこし四角ばったじぶんの顔のことと解して、それはなかなかうまいと感心し、
「しかし、六角時計というのはない。あれは、八角時計や」
 と訂正した。》

大正六年に発足した「詩話会」が主体となって新潮社から雑誌『日本詩人』が出ることとなった(大正十年十月創刊)。その編集に百田が抜擢された。

《新人ではあるが、誰とも因縁の少ない百田が、編集をひきうけることになった。》《公器の責任者として公平な立場をまもろうとした百田は、日本詩人という雑誌に、じぶんの体臭、デモクラシーのにおいをつけたと言われまいと、必要以上に警戒した。》《そこで僕が金冠子という匿名で、毎月フランスの詩の翻訳をしたり、林髞をつれてきて、林久策という名で、ドイツの詩の紹介をしてもらったりしてお茶をにごした。雑誌のうらのカットも、僕が描いた。装幀のことも、配列も、新人のあつかいも、一応、意見を出してみることになっていたが、そういうことになると百田の方が上手で、格別、僕の方から新しい案もなかった。》

《作品の問題となると、僕と百田は折りあわない点が多かった。それは自明の理だったが、若い二人は、そのためにいつはてるともない議論を闘わした。僕の方でも遠慮して他の客のいる時には、口をつぐんでしまった。ただ、百田の食客をしていた山崎俊介が、ポーを耽読していて、いつも僕の方に味方した。百田の美点は、自説を固守しながらも、大局においては他人の立場も無視しないという点にあった。
 二言目には、「君、関西では、ものそのものの味を殺さんように料理をするよ。関東の味は、かやくが多すぎて、ものの味は殺されてしまう。君とちがう僕の詩は、ものの味を殺さんための淡白さや」
 と、自論をもち出すのだったが、僕はなんだか話がちがうとおもいながら黙ってしまった。鏡花ファンのしをり夫人も僕の方へついてしまうので、百田はいつも孤立の立場になって、遂に苦笑しておわる。関西の味かもしれないが、百田の詩は淡白がすぎて、水トンか、かき玉のようだと僕は考える。》

《百田が編集しているあいだ、『日本詩人』とはいろいろかかわりあいがあったため、友人の大藤治郎が、日本詩人の官僚主義を排して、玄文社から長谷川巳之吉のあとおしで『詩聖』を出すにあたって、
「二人でやろうじゃないか」
 と相談をもちかけたが、
「僕は、こんどはそっとしておいてほしいんだ。百田との義理があるんでね」
 といってことわる以外はなかった。なんだか政界人の内幕みたいで、いま考えてみるとへんてこりんな気持がしないでもない。》

ちなみに大阪の西区新町にある百田宗治文学碑に刻まれている「何もない庭」(一九二七年)は次のような作品。

  日がかげれば
  何もない庭はさびしい
  日さへ照つてゐれば
  万朶の花の咲きにほふ心地がする

÷

大阪案内ショートムービーに金秀吉「オダサクが愛した法善寺横丁」がアップされた。ほんとにそのまんまのダイジェスト。
by sumus_co | 2008-02-27 21:30 | 古書日録
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