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佐伯祐三

佐伯祐三_b0081843_19581951.jpg


『日本の名画23 佐伯祐三』(中央公論社、一九七五年)。佐伯は学生時代にもっとも好きだった画家の一人。竹橋の近代美術館へ、常設展示の靉光や岸田劉生などを見るためによく通っていたが、佐伯では「モランの寺」(1928)が出ていた。没年に描かれたほとんどカンペキな結晶といった作品だ。

たぶんその頃新刊で買ったと思う。ひょっとして大学に近い鷹ノ台駅前の松明堂書店かもしれないが、そうではなく、郷里の宮脇書店だった可能性が高い。というのは3200円という定価では、乏しい仕送りの中からはちょっと買えなかったろうから。なにしろ下宿の家賃は9000円だった。この本はレイアウトが良くて、白を基調にしたスタイリッシュな造りも気に入っている。デザイナーの記名なし。

そして解説の前に収録されている芹沢光治良のエッセイ「これも、純粋ですか」がなかなかいいのだ。芹沢は一九二五年にフランス留学へ向かうとき、佐伯の兄祐正と同じ船(白山丸)に乗り合わせ、パリで弟の祐三と親しくなる。

《大学が早くおわって、散歩のつもりでルクサンブール公園をぬけて、パッシーの方へ歩いて出ようとしていて、突然、淋しい街角で、佐伯君が描いているのにぶつかった。私は静かに近づいて背後に立った。十号ばかりのカンバスに、崩れかかったガラージが描かれていた。垂れこめた日で、もう薄暗くなっていたから、やめるものと思って待った。彼の描くのに初めて立ちあったので、我慢して待った。見えなくなっても描いていた。やがて絵筆をおいて、私に気がつくと、真剣な面持ちでせきこむように、言った。
「どうです。これも、純粋ですか」
私は言葉が出なくて大きくうなずいた。》

佐伯の姿が目に見えるようだ。この出会いの前に芹沢が佐伯の「靴屋」という作品を「純粋だ」と褒めていた。ちなみに「純粋」というのは昭和初期に流行った言葉。コルビュジェのピュリスムという概念(1918〜30頃)もあって、日本でも純粋詩、純粋小説、純粋映画などと通俗的に用いられた(「純粋」という語そのものは『史記』にも見えているが、カントの「純粋理性」あたりが近代での流行の端緒か?)。

この後、佐伯が一時日本に帰国することになって、芹沢のところへ借金に来た。「×百円貸してくれませんか」と頼まれる。すると芹沢はブラマンクの絵を買うつもりだったが、今は君の絵の方が欲しいと(嘘を?)言って二点入手する。その一点がこの画集にも載っている「パスツールのガード」である。暗いけれどいい絵だ。当時の百円は現在の三十〜五十万円だろう。今ならこの絵、幾らすることやら、億? (みなさん、無名作家の絵を買っときましょうね)

÷

佐伯祐三_b0081843_20593861.jpg


荏原肆夫『絶望と知的創意』(湯川書房、一九七三年、装幀=政田岑生)。昨日頂戴した資料の一部。湯川書房から出ている塚本関係の本の多くは政田の装幀だとのこと。某氏よりいただいたメールにはこうあった。

《ガッチリとした体躯、精悍な風貌の政田さんと、今にも倒れそうな愛煙家の湯川さん、政田さんが早く逝こうとは信じられませんでした。名古屋から転勤され、交野か枚方の社宅での単身赴任から、高槻市にお家を構えられ、社宅のフトンなどを車で運んだ時が、氏と少しお話が出来た時でした。「もう××さんこれは極道ですよ」と東京海上という大企業に勤められるのを、羨む小生に、ぼやかれていたのが一番心に残っています。》

出版はバクチ。バクチに精を出すのが極道である。
by sumus_co | 2007-07-19 21:20 | 雲遅空想美術館
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