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翔ぶごとく賈れぬもいとし残る雁![]() 山田稔選『天野忠随筆選』(編集工房ノア、二〇〇六年)。山田氏のあとがきにこうある。 《「何でもない」ことにひそむ人生の滋味を、平明な言葉で表現し、読む者に感銘をあたえる、それこそが文の芸、随筆のこつ[二字傍点]、何でもないようで、じつは難しいのである。》 ÷ 23日は午前十時少し前に海文堂書店に到着した。店の前でアカヘル君と高橋氏に会う。勝手口から入ると、すでにモダンジュース古書部の扉野氏とみずのわ氏が飾り付けを行っていた。こちらも箱を開けて並び換える。満員に詰め込んでいたので空き箱に移し結局五箱にした。来場されない店の箱も開けて行き、それなりに見やすいように並べ替え、あるいは台の上に直接拡げるようにする。十一時少し前になんとか準備が整う。 どのくらい来場者があるのか、初めての催しなので、まったく分からない。ところが十一時になると、次々に小走りで入場者が詰めかけ、あっという間に五十人ほどが古書にかじりつくような状況になった。正午すぎまでずっとひきつづき満員であった。十二時半頃に人がまばらになったが、一時半ごろからまた増えはじめ、三時前には満員状態を回復。あとは徐々に人が減って、四時にはまばらだが、箱を片付けているときにまだ粘っている人もいた。ナベツマの友人から届いた感想メール。 《本見るのに忙しくて(新刊1冊と古本5冊買った)本の話以外しなかったのにゃ。個人的好みとしては山本さんと高橋さんの箱に欲しい本が多かったです。普通の古書店よりも面白かった。いわばセレクトショップだもんね。》 オヌシなかなかツウですな。実際、結果を見ると、古書高橋がダントツの売り上げ、二位が善行堂だった。それ以外はだいたいどの店も同じくらいの出来高だったように思う(計算は海文堂書店の担当なので小生も正確には把握していない)。というのは、高橋さんは古書らしい古書を持ち込んでおり、値段もいい線(市場価格よりは安いが決して投げ売りではないという意味)いっていたのだ。来場者の年齢層がやはり高かったので、その意味では高橋さんの出品内容が需要にピッタリきたということだろう。 すむーす堂は百冊ちょっと売れたようである。とにかく20円からだからタカが知れている。とはいうものの助かります(!)。 ÷ ひとつ悔しかったことがあった。前もって出品者の箱はなるべく見ないつもりだったが、これが間違いだったことを思い知った。というのは、扉野氏が梅崎春生の未所持本などの他一山をレジの横に積み上げて(むろんこれは開店してからの買物)、お金を銀行で引き出して来ますと言いながら出て行ったときにチラリと検分したところ、波屋書房の『家庭で出来るコツクテールの作り方』(一九二六年)が混ざっていた。値段は六百円。古書高橋の出品である。 波屋書房の『カルトマンシー』を五十円で買った話はこの前に書いたが、これはちゃんとカバーも付いている。宇崎純一のイラスト(二色刷)もある。扉野氏が戻って来た時に、ぜひ譲ってくれるように頼んだが、いつになくウンと言わないのだ。千円出す(小生としては思い切った提示)と言ってもだめだった。 さて、古本市も終わって打ち上げの会場へ移動したとき、この本の話が出たので、もう一度、懇願してみた。すると扉野氏はいかにも彼らしいこの本とのいきさつを語ったのである。いわく、高校生のときにある古道具店で裸本の『家庭で出来るコツクテールの作り方』を見つけた、しかし四千円だった、一九八〇年代のことだからそれは相当思い切った値段ではなかったか。とても欲しかったが断念したという。それ以来苦節十何年、カバーまで付いた本がたったの六百円、これは簡単には譲れない、そういう長い長い物語があったのである。負けました。 すると隣に坐っていた高橋さんがポツリ。 「あ、それ、林さん用にと思て入れといたんですけどなあ」 噫、天はわれを見捨てたか。それならそうと始まる前に言ってほしかった。
by sumus_co
| 2006-11-24 18:25
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