小沢信男さんより『文字力100』の感想葉書をいただく。
《ぜいたくな本だ。宮沢賢治全集の、心平と慶一のくいちがいなど、一頁で三遍ぐらいおもしろい》
ありがたいお言葉である。また、聞くところによると、かつて黒岩比佐子さんと同じ会社で働いておられたという吉岡実書誌の小林一郎氏からもご丁寧なお葉書をいただいた。「91筑摩書房の三十年」に小林氏の文章を引用させていただいている。暮しの手帖社のHさんからも《本文中で弊社の出版物を取り上げて頂きまことにありがとうございます》というメールをいただいた。こちらこそ使わせて頂いて感謝です。
調べものをしていると、森茉莉『マリアの気紛れ書き』(ちくま文庫、一九九五年)にその「暮しの手帖」のことが出ているのを見つけた。ポストイットが貼ってあるので以前読んだことは違いないが、すっかり忘れていた。
《華森安次に誘われたレストランの食事が終り、マリアが次の週から、「生活の手帳」に通うことに話が定まって、その日は別れた。さて、西銀座は新橋の方へ渡る川の川淵にある「生活の手帳」社に、マリアは次の週から毎日(出社)したのだが、それは正確な意味では、(出社)とは言えなかった。ただ(行った)のである》
《民本一枝もマリア同様、華森安次のところに来て、「生活の手帳」社の不正式社員になっていた》
《華森安次というものはたった一つの太陽であって、唯一人の社長であり、編輯長であり、イラアストレエター、編輯員を兼ねたものである、という、特別な存在で、「生活の手帳」というものは、華森という人物がすべて一人で遣っていて、彼以外の頭脳を必要としない》
いや、面白い。民本一枝とは富本憲吉夫人だった富本一枝。若い恋人が憲吉にできたため離婚させられて、花森に助けられたということらしい。一枝は『青鞜』の元編集部員の尾竹紅吉である。
町で見かけた看板犬。