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瀬戸内海のスケッチ

瀬戸内海のスケッチ_b0081843_19503945.jpg


瀬戸内海のスケッチ_b0081843_19503271.jpg

山本善行選『瀬戸内海のスケッチ 黒島伝治作品集』(サウダージ・ブックス、二〇一三年一〇日一九日、装幀=加藤賢一、装画=nakaban)読了。カバーの表と裏に nakaban のイラストレーションが配されているのが目を惹く。

小生も讃岐の出身ながら、小豆島には一度合宿で泊まったことがあるだけで(そのときは星空がたいそう美しかった)そう強い印象はない。他には子供の頃に父母たちと寒霞渓(藤沢南岳による命名)へ観光したおぼろげな記憶もあるが、これもはるか遠い昔のことだ。やはり小豆島と聞けば、オリーブであり醤油、そうめんであり、壷井栄であり尾崎放哉である(現在はどちらも記念館ができているらしい)。黒島伝治は

《僕の村は、文学をやる人間、殊に、小説を読んだり、又、小説を書いたりする人間は、国賊のようにつまはじきをされる村であった。》(「僕の文学的経歴」)

と書き、東京へ出た後ある講演会で

《ふと、同村の壺井繁治に出会した。そこで始めて、壷井が文学をやろうとしているのを知った。意外だった。文学をやる人間を国賊のように云う村から、文学がすきな人間が二人出ていたからである。》

と続けている。壷井も小豆郡苗羽村(現在の小豆島町)の出身、壷井栄の夫。黒島より一歳年長で昭和五十年に七十八歳で亡くなっているが、昭和十八年に四十五歳足らずで歿した黒島の顕彰に努めた作家である。

長い間、『渦巻ける烏の群』(岩波文庫)と『橇・豚群』(新日本文庫)が棚に差してあった。たぶんある程度は読んでいただろう、非常に上手い作家だという認識はあった。しかしそれ以上体系的に読むとか、全集を買うとか、そこまではのめりこめなかった。それが、いつだったか、わりと最近、ここ五年くらいの内に雑誌『文学時代』(新潮社)の昭和四年十月号を求めたことがあって、そこに「短篇小説二十五人集」という特集が組まれていた。当時流行だったプロレタリア作家とモダニスト(稲垣足穂も入っている)が選ばれており、黒島も「蚊帳と偽札」というコントを寄稿していた。これがちょっと面白い貧乏物語で、コミカルなオチまであって、黒島伝治ってこんな小品も書くのかと驚いたことを覚えている。下の紹介は『文学時代』より。

瀬戸内海のスケッチ_b0081843_21223317.jpg


そう思ったまま、黒島に関してはそのままとくに変化もなく、ただひとつ事件らしきものとしては、去年あたりしばしば帰郷していた頃に高松の古書店に黒島の初版本(重版もあったか)が五冊くらい並んでいたのを見つけた。ところがこれがまた絶妙な値付けであって、要するに日本の古本屋よりは確実に安くしながら、でもセドリするほどじゃないよ、という感じだった。それでも迷っているうちにめぼしい本は売れてしまったから、やはり黒島人気は手堅いのかもしれないとやっと気が付いた。

ちょっと検索してみると、二〇〇〇年代に入って黒島伝治に関する研究書が何冊も刊行されている他に、作品もポプラ社の百年文庫『村』(黒島伝治・葛西善蔵・杉浦明平、二〇一一年)に二篇、『アンソロジー・プロレタリア文学. 1』(森話社、二〇一三年)には一篇が選ばれるなどしている。

そしてこの本が出た。これは山本善行選だから、読んで面白いことは言うまでもない。そういう作品が注意深く選ばれている。短篇が連なっているから次はどんな話になるのか、読むのを止められなくなるくらいである。

《私は、黒島伝治の小説を読み始めると、その呼吸、リズムにからだをあずけるのが気持ちよく、気がつけば、からだがその物語の中にどっぷり浸かっているのだった。また、黒島の小説の特徴として、会話文の巧みさがあると思う。話し言葉を上手く使うことで、物語を生き生きと描き出している。》(解説)

これにはまったく同感だ。黒島の登場人物たちの会話を読んでいると、小生の父母や近隣に住む村人(「部落のしい」という、部落は集落の一単位である、「しい」は衆の訛)の会話を思い出す。

《「さあさあ、えいもんやるぞ。」
 ある時、与助は、懐中に手を入れて子供に期待心を抱かせながら、容易に、肝心なものを出してきなかった。
「なに、お父う?」
「えいもんじゃ。」
「なに?……早ようお呉れ!」
「きれいな、きれいなもんじゃぞ。」
[略]
「こんな紙やこしどうなりゃ!」
「見てみい。きれいじゃろうが。……ここにこら、お日さんが出てきよって、川の中に鶴が立って居るんじゃ。」彼は絵の説明をした。
「どれが鶴?」
「これじゃ。ーー鶴は頸の長い鳥じゃ。」
子供は鶴を珍しがって見いった。
「ほんまの鶴はどんなん?」
「そんな恰好でもっと大けいんじゃ。」
「それゃ、どこに居るん?」
「金ン比羅さんに居るんじゃ。わいらがもっと大けになったら金ン比羅参りに連れて行てやるぞ。」
「うん、連れて行て。」
「嬉し、嬉し、うち、金ン比羅参りに連れて行て貰うて、鶴を見て来る。鶴を見て来る。」せつは、畳の上をぴんぴんはねまわって、母の膝下へざれつきに行った。与助は、にこにこしながらそれを見ていた。
「そんなにすな、うるさい。」まだその時は妊娠中だった妻は、けだるそうにして、子供たちをうるさがった。》(「砂糖泥棒」)

……というような、ひとときタイムスリップしたような錯覚に陥る読書体験であった。多少、キャラクタ作り、物語作りがパターン化している気がしないではないが、それはある意味、面白さの秘密かもしれない。悪人はあくまであくどく、見栄張りは見栄を張りつづける。チェーホフ、フィリップ、メリメなどの影響もあるのだろう。しかし、所変われば品変わるで、彼らの作風を連想させるかと言うと、そんなことはまったくなく、あくまで大正時代頃の小豆島の人間模様が芝居か映画を見るように展開される描写にどっぷり浸れるのである。


サウダージ・ブックス
http://saudadebooks.jimdo.com
by sumus_co | 2013-10-02 21:36 | おすすめ本棚
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