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木琴デイズ![]() 通崎睦美『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』(講談社、二〇一三年九月九日、装幀=間村俊一、本文デザイン=西岡勉)読了。力作である。 通崎さんは著名なマリンバ奏者。しかし小生にとって通崎さんと言えば『天使突抜一丁目』(淡交社、二〇〇二年)という著書を出しておられるように、京都の下京区に実在する天使突抜という住所に住んでおられるということで印象深い。この天使は耶蘇の天使ではなく平安時代に天神を祀った「天使の宮」ができたことに由来するというが、一度聞いたら忘れないインパクトのある地名だ。 本書の装幀を手がけておられる間村さん(装幀=間村、本文=西岡というのは通崎さんのご指名だそうだ。さすが)と親しい編集者Yさんが「ぜひ林さんに紹介したい」といって京都市中の料理屋のようなところでお会いしたのが最初だった。先日も拙作個展に来て下さってご挨拶くらいはしたが、こんな本格的な評伝を執筆されているとは知らなかった。 平岡養一という傑出した木琴奏者は若くして渡米、NBCラジオの専属アーティストになるほどの活躍を見せた。日米が交戦状態になるや、米国の友人たちの制止を振り切って帰国、戦時下で多くのレコードを吹き込み、コンサートを開き、音楽挺身あるいは従軍慰安活動に参加した。また敗戦を経ても変わることなく演奏活動を続け「紅白音楽試合」にも出演するなど大衆的な人気を博したそうだ。しかし徐々に木琴という楽器はすたれてゆき、マリンバに取って代わられる。ひとつの時代が終わる。 そして今、またその木琴デイズが復活しようとしている。木琴とマリンバとシロフォン(ザイロフォン)がどうちがうのか、知ってます? そのへんもぬかりなく本書においては詳述されているのでご心配無用。 歴史的記述や文化全般に対する目配りも充分になされており、著者自身が演奏者であるということから単なる評伝を越えた共感や、演奏者ならではの分析も随所に見られて、感嘆しながら読みふけっていたのだが、内容はもとより、その説明の分かり易さが小生のような音楽に昏い人間にも響いてきてある意味意外に感じたほどだ。例えば平岡養一のライバルだった同じ慶応出身の朝吹英一(朝吹の評伝にも一章割かれている)、二人の音楽的な相違を説明するくだり。 《たとえて言うなら、何か困った事態に遭遇したとする。「助けてくれ!」と大声で叫べる、あるいはつい叫んでしまうのが平岡の音楽だとすると、朝吹の音楽には、どんな緊迫した状況にあっても「すみませんが、こういう事情で困っておりますので、助けてはいただけませんか」というような折り目正しさがある。おそらく、朝吹は心から叫べる平岡を心のどこかでうらやましく思いながらも、それを軽蔑する心がないとは言えず、同時に自分は決して叫びたくない、という気持ちがあったに違いない。平岡からすれば、朝吹の美しい音楽作りはどこか「きれいごと」に思えたのではないか。しかし、朝吹の人となりを知る平岡は、その美しさが単なる「作り物」ではなく、朝吹そのものであることを誰よりも知っていたから、その美しさを認めざるを得なかっただろう。》 あるいは平岡の演奏を総括するくだり。 《平岡の弾く旋律は、時に不均等なゆらぎをみせはじめる。 均等であることに慣れきった現代からすると、平岡の過度なアゴーギグは、時に理解を超えるものだが、どんなに独特の「平岡節」が出てこようとも、決して全体的なビートは揺らぐことがなく、またミス・タッチもほとんどない。平岡の音楽の変遷をみていけば、これが単なる癖ではなく、工夫であり、独特のセンスであったことがわかる。 より多くの人に語りかけたいと思う平岡の歌心の表れだったのだろう。》 《これらの奏法により、透明感のある木琴の音色に「雑味」が加わったともいえる。音符としては表現できない、すなわち成分表示ができない「雑味」であったからこそ、誰にも真似のできない味わいが生み出された。一部分聞いただけでも「これは平岡の木琴だ」とわかる、平岡養一の世界を確立し、大衆からの人気を得た。》 断片的な引用だが、それでも通崎さんの文章の巧みさがよく分っていただけると思う。通崎さん自身が本書について語っている画像が YouTube で見られるのでご参考まで。また平岡養一と通崎さんの演奏もリンクしてみる。 木琴を弾く通崎睦美 平岡養一の評伝を書いて! http://www.youtube.com/watch?v=vU854U0oHEY 平岡養一 夢見る人(Beautiful Dreamer) 1974 http://www.youtube.com/watch?v=wtV56wEnAu4 Recorder and Xylophone Duo http://www.youtube.com/watch?v=CnF--KHdb0s 高遠先生の文楽の本もそうだったけれど、知らない世界の物語を読むのは少々骨が折れるにしても(専門用語や固有名詞に馴染みがないので)、そこから得るものはこちらが思うよりも深く大きいかもしれない。とにかく六十年近く生きてきても世の中知らないことばかりなのだ。だから本は面白い。
by sumus_co
| 2013-09-27 21:48
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