アルフレッド・ジャリ『ユビュ王 Ubu roi』(Fasquelle, 1921)をなんとか読み終えた。ジョルジュ・ブラッサンス公園の古本市で買ったもの。現代思潮社から一九六五年に邦訳(竹内健訳)が出ており、六六、七〇年と重版しているにもかかわらず、古書価は、ものすごくではないにせよ、それなりに高いため(新訳が出ていないせいか?)、手が出ないでいた。しかしながら、浅学な者にとってはフランス語で読んでは意味不明なところが多すぎる。(タイムリーにも
現代思潮社より『ユビュ王』が復刊されることになったとご教示いただきました!)
とにかくジョークは馬鹿馬鹿しい分だけ理解しがたい。しかも元々がジャリが高校生のときのネタらしいからなおさらである。そもそも「ユビュ王」というタイトルが、一応ソフォクレスの「オイディプス王 Œdipe roi」をふまえつつ、ジャリが学んだレンヌのリセで体育教師だったエベー(Hébert)先生から来ている。エベー、エベ、エビュ、ユビュ……。エベー先生を槍玉に挙げたジョークとして友人たちと共同で書かれたものだそうだ。高校生のやりそうなことである。
とは言え、ストーリーはいたって単純、君主を裏切って王座に着く『マクベス』のパロディである。後半はナポレオンのロシア遠征を連想させる。無能で卑劣なペール・ユビュが外国で大暴れして、さんざんな目に遭って逃げ帰るというフランス人の好きそうなおちゃらけ物語。
初めマリオネットによって一八八八年に上演され、一八九六年にポール・フォールの雑誌『Le Livre d'art』に発表された。その後すぐ「ルーヴル座 théâtre de l'Œuvre」によって上演されたが、開幕第一声が「くそったれめ!」(Merdre! 、これも「メルド merde」をレンヌの学生たちが「メルドル」と訛って使っていたところからきているらしい)だったことでスキャンダルを巻き起こした。マラルメをはじめとして支持する人達も多くいて、今でも人気は衰えていないようだ(漫画にもなっているし)。また、ubuesque(ユビュのように滑稽な)という一般形容詞も手許の辞書には載っている。
先日の『DADA』図録にも「ALFRED JARRY」が立項されており、ジャリがダダに与えた影響が簡単にまとめられているが、それによれば、マックス・エルンストが一九二三年に『ユビュ王』を読んで感激し、その直後に画き上げた作品が「征服者ユビュUbu Imperator」(下図)だったそうだ。樽のように進撃するというイメージを絵画化したもののように見える。
で、ふと思ったのは、エルンストが読んだのは、ひょっとしてこの一九二一年のファスケル版ではないか、ということだ。だったらどうした、と言われても困りますが。
なお本書には刊年が記されていない。ただし一九二一年発行の特装版があるのでそれに従った。