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蔵書の苦しみ![]() 岡崎武志『蔵書の苦しみ』(光文社新書、二〇一三年七月二〇日)読了。「蔵書の苦しみ」というタイトルがうまい。著者も「あとがき」で書いているように 《「本が増え過ぎて困る」というぼやきは、しょせん色事における「惚気(のろけ)」のようなもの》 「苦しみ」のないところに「楽しみ」は存在しない。蔵書における究極の愉楽、それは蔵書について苦しみ抜くことではないだろうか、と本書を読んでサド・マゾ的に思ったしだいである。内容の説明よりも目次を掲げるのが手っ取り早いしまた、この目次そのままの内容である。 第一話 蔵書が家を破壊する 第二話 蔵書は健全で賢明でなければならない 第三話 蔵書買い取りのウラ側 第四話 本棚が書斎を堕落させる 第五話 本棚のない蔵書生活 第六話 谷沢永一の場合 第七話 蔵書が燃えた人々 第八話 蔵書のために家を建てました 第九話 トランクルームは役にたつか? 第十話 理想は五百冊 第十一話 男は集める生き物 第十二話 「自炊」は蔵書を解決するか? 第十三話 図書館があれば蔵書はいらない? 第十四話 蔵書処分の最終手段 どの話も面白すぎるが、ひときわ興趣をおぼえたのは「古書西荻モンガ堂」富永さんの第九話、羽島書店羽島さんの「羽島書店まつり」そして「岡崎武志一人古本市」における蔵書最終処分法(第十四話)。ブログなどによって「羽島書店まつり」も「岡崎武志一人古本市」も知識としては知っていたが、東京在住ではないうらみもあって、参加することはかなわなかった。本書を読むと、たいへんな賑わいで、大成功のイベントだったことがリアルに感じられる。羽島さんは東大出版会で『知の技法』を編集した方。その羽島さんの本を売った古書ほうろうの宮地さんはこう言っている。 《羽島さんは、近くの書店『往来堂』へ毎日のように通って、どんどん本を買っていく。本を見て、選んで、買うことそのものを、出版という仕事の活力にしていくという感じで、だから、けっこう未読の本も多い。段ボールを開けたら、書店の袋に入ったまま、なんて本もありました》 これはなかなか意味深い観察だ。本を買うことの本質を衝いているのではないだろうか。書店の袋に入ったままだから、羽島さんがその本を読んでいないとは限らない。少なくとも、書店で手に取ったときにタイトルその他、主要な情報は読み取っただろう。何よりも、お金を出して買い取ったことに大きな意味がある。 本を買うということは(決して「読む」ではなく)、自分のものにする、血肉にする、活力にすることそのものである。その意味では食事に近い行為かもしれない。ちょうど黙示録でヨハネが本を食べたようなものである。 《彼いふ『これを取りて食らひ尽せ、さらば汝の腹苦くならん、然れど其の口には蜜のごとく甘からん』われ御使の手より小さき巻物をとりて食ひ尽したれば、口には蜜のごとく甘かりしが、食ひし後わが腹は苦くなれり。》(『新旧約聖書』米国聖書協会、一九一四年版、黙示録第十章第九〜十節) 口には蜜のごとく甘いとは、よく言ったもの。本を買う誘惑の甘さ。そして自分のものとした後の苦さ。たくさん食べれば太ってしまう。日々の積み重ねによって、どうしようもなく肥大した肉体、そこからまさに「蔵書の苦しみ」が生まれるのだ。 そしてその決定的ダイエット法として蔵書家の前に出現したかのような電子書籍についても、ダイエット嫌い(?)の岡崎氏はこう考えている。 《これまで出版されたすべての書籍や雑誌が、すべて電子データ化されるとはとても思えないから、「紙の本」でしか残らない情報もあるはずだ。歌手・弘田三枝子のダイエット本『ミコのカロリーブック』が、電子書籍になる日は来るだろうか。》(あとがき) 出た!『ミコのカロリーブック』。ただ、小生の考えでは、すべて電子データ化される可能性の方が高いような気がする。ただし、そのことと紙の本の存亡とは別次元の話であろう。また「第十一話 男は集める生き物」にも多少の異論があるけれど、それについてはいずれ、どこかで書いてみたいと思うので、ここでは書かないでおく。 何はともあれ、暑さを吹っ飛ばすにもってこいの痛快な一冊である。 * これまで紹介した岡崎氏の近著 上京する文學 http://sumus.exblog.jp/19326754/ 昭和三十年代の匂い http://sumus.exblog.jp/20437247/ ご家庭にあった本 http://sumus.exblog.jp/18085945/
by sumus_co
| 2013-07-22 21:44
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