林蘊蓄斎の文画な日々
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川端康成伝

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小谷野敦『川端康成伝 双面の人』(中央公論新社、二〇一三年五月二五日)読了。序文で著者は《タブーなき伝記を書こうとしているだけである》と宣言している通り、川端康成という不可思議な文士の双面をあたう限りの資料を駆使して詳細に描いている。

しかし単なる年表のような書き物でないことは言うまでもなく、小谷野節とでも言うべきツッコミがいたるところに挿入されて、眠たくなったときに横面を張って起こされるような効果をこの希有な評伝に与えているように思った。久米伝、里見伝は未読ながら、谷崎伝は読ませてもらった。二者を比較してみると、よく練られているのは谷崎伝の方だが、印象としては、いかにも荒っぽい川端伝の方が面白みに勝るように感じた。あるいはそれには川端康成という対象の面白さ、胡散臭さも大いに寄与しているのかもしれない。

すでにコメント欄でご指摘いただいたように「結語」で小生の名前が挙がっているが、小生が淀野隆三に関して提供した情報よりも、小生がこの著書から得る淀野関連の情報の方が多いように思った。その意味ではたいへん有り難いことである(索引もついている!)。小野勇(小野松二の弟)についても多少のことを伝えたが、それは具体的には現れていないようだ。本書に限らないけれども、力作の著述にはそのように無数の表に現れない情報の蓄積があるのだということを改めて感じる。

川端伝に刺激され、淀野日記のこれまでに解読したなかから、川端康成の名前を拾ってみた。本当は先ずこれを提供すべきだったかもしれないけれども、本書を読んでみると、特別ここに追加すべき新情報があるとは思われない。そのくらい本書では川端の生涯が事細かに追求されている。


一九二七年
一月中旬 湯ヶ島へ梶井基次郎を訪ね川端康成に初対面。
二月五日 政子と二人で湯ヶ島の落合楼へ泊る。梶井が面会にくる。以後連日、梶井や川端康成と碁を打って過す。
二月一二日、一三日 川上市之助一座の芝居を見る。川端夫人と政子(後に淀野の妻となる女性)がたいへん仲良くなる。

一九三三年
一一月一日 「梶井基次郎に就いての覚書」書き上げ、二日に川端康成宅へ届ける。

一九四〇年
八月一七日 軽井沢へ。川端康成のコテージに泊る。
八月一九日 午前、川端夫妻らに見送られて軽井沢を出発。 

一九四三年
三月一八日 柊家(京都の旅館)で川端康成に会う。ちもとで川端夫妻、政子(淀野妻)、華子(淀野娘、本書によれば、川端のお気に入りだったそうだ)と会食。
三月一九日 京都市伏見区の淀野商店を川端夫妻が訪問。

一九四七年
六月一五日 川端夫妻来宅。
一一月一四日 鎌倉の川端宅へ。佐伯の画を持参する。

一九四九年
四月一五日 川端康成宅へ寄る。川端宅に宿泊。
四月一六日 川端宅に谷長、竹村来る(ともに高桐書院の編集者)。単行本がほしいという話。
四月二〇日 川端夫人と話し込む。
四月二一日 川端宅へ三笠書房の竹内道之助が『地獄の一季節』(竹内訳)の校正刷を持つてくる。序文の依頼(淀野は高桐書院を清算した後、三笠書房で働くようになる)。

一九五〇年
五月一五日 川端康成の代筆で『フランス映画』(飯島正著、三笠書房)の推薦文を書く。
五月二〇日 楨子(淀野娘)は川端邸に移る(しばらく下宿していたようだ)。
七月一二日 川端康成が三笠書房訪問。ペンクラブの寄付集め。

一九五一年
八月五日 川端宅訪問。作品を貰う話を決める(淀野は主に三笠文庫の編集をしていた)。
八月八日 川端宅訪問。宿泊。
八月一三日 川端政子(川端の養女)と落ち合って特急はとに乗る。
八月二一日 新潮社佐藤義亮葬儀に参列。川端、竹山道雄とタクシー同車。

一九五三年
二月一日 竹内道之助とともに川端宅訪問。『再婚者』三十部持参。

一九五四年
三月一日 憲法改正反対運動の件、ペンクラブ例会に出席。豊島与志雄、真杉静枝、平林たい子、板垣直子、村松正俊、青野季吉、小松清、伊藤整、中島健蔵、川端康成ら。
三月六日 川端秀子より電報。折り返し電話すると谷本昇の明治大学商科受験の依頼(淀野はこの頃、明治大学でフランス文学を教えていた)。
三月八日 岸田国士の葬儀。川端康成ら。
五月二十四日 「湯ヶ島の川端氏と梶井君」を書き終わり、岩波書店へ届ける。
六月一日 午後、ペンクラブ例会へ。立野信之、豊島与志雄、高見順、壺井繁治、川端康成ら。

まだ、ここまでしか読めていないので、とりあえずはこのくらいである。一九五四年、川端夫人が明大への受験を頼んできた「谷本昇」とは誰なのか、小谷野本の索引で調べてみると、52頁に「谷本カネ」という川端が小学生だった頃の女中の名前が出ている。う〜ん、さすがに関係ないか……あるいは、あるのか?

とにかく、いろいろ楽しめる一冊である。
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by sumus_co | 2013-07-13 21:06 | おすすめ本棚
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