村岡三郎さんが亡くなられた。関西の現代美術家のなかではもっとも好きな作家の一人だった。昔はよく展覧会を見に行ったものだ。昭和五十八年三月二十九日にギャリー16で個展を見たのは今でもよく憶えている。当時の日記より。
《マチエールのわずかな変化に対する敏感さ、形而上的なモチーフ。精神界での仕事である。しかし興味深いことにこの作者はしばらく入院していた時期が最近あり、病床でのあせりをこのように語ってくれた。「スケッチブックだけじゃだめなんだ、よけいに不満がつのってね……何かこうごちゃごちゃやってないと……(病室に)鉄もって来い! と言うわけにもいかないし……」この手仕事の触覚こそその精神界を造形化するこの作家の本質であろう。どの作品もよく練られたものであった。「塩水(気化)」というソーセージ状の鉛の作品もおもしろいと思う。》
個展会場で作家と会話を交わしていたようだ。すっかり忘れていた。ご冥福を祈ります。