
書簡と自筆の展示館(
MUSEE DES LETTRES ET MANUSCRITS)へ。二〇〇四年一月、実業家のジェラール・レリチエ(Gérard Lhéritier)がネスル通りに開館、二〇一〇年、サンジェルマン大通り222番の現在地へ移転して、意欲的な展覧会を開いている。
地下鉄の通路にポスターが貼ってあった。この顔写真と展覧会のタイトルだけ。
"Landru -6h10- Temps clair"
妻に「これ誰?」と尋ねられて「知らんなあ…詩人だろ」などと適当に応えていたのだけれど、会場に足を運んで、最初のパネルを読むと、
《アンリ・デジレ・ランドリュ、身元がはっきりしているフランス人最初の連続殺人犯の一人、は数十年にわたって魅惑的な影響力を保っていた。一九一五年から一九年の間に、この有名な犯罪者の「ちょっとした企て」……十人の女性と一人の青年の死亡に関与……は結婚を約束しておいて独身者や未亡人たちをだますことだった。》
とあって、びっくり。"Landru -6h10- Temps clair" というタイトルはギロチンにかかった時刻を指すそうだ。「午前六時十分、明るい時間」

ランドリュの生い立ちから死刑までを、まさに書簡や警察資料、裁判資料、ときにはその名前が出て来る同時代の作家の手紙などまで、自筆資料のみならずタイプ資料や印刷媒体をも駆使してランドリュの生涯を再構成している。

展示会場はそう広くはないものの、展示にはさまざまな工夫がこらされていた。

このオーブンで死体を焼却したのだとか。

当時の雑誌。フランス中の話題になった。

ギロチンへ向かうランドリュ。

この展示を見て思ったこと、これは月の輪書林の目録だな、である。「李奉昌不敬事件」予審尋問調書など、まさにこんなスタイルだった。このミュゼが開館してから古書業界ではオトグラフ(自筆資料)がいっそう注目されるようになったという話も聞いた。
『ラ・レットル la lettre』というmlmの広報誌。
そしてパンフレットから所蔵品紹介のページ。シャーロット・ブロンテのごく小さなノートに書き付けられた草稿、レイモン・クノー「地下鉄のザジ」の草稿、エミール・デュ・シャトレ(幾何学と数学の問題)、ジョセフ・ド・モンゴルフィエ(気球の発明者)の草稿、そしてサン・テグジュペリのデッサン「星の王子さま」。科学者や殺人犯まで、文筆家に限らないところがミソである。