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粋人粋筆探訪

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坂崎重盛さんの新著『粋人粋筆探訪』(芸術新聞社、二〇一三年四月五日)を個展が始まる前に頂戴していた。画廊で人の来ないときを見計らって楽しく読了。坂崎さんのこれまでの著書の例の漏れず、粋人粋筆というテーマに沿って選ばれた書物や雑誌を、それらの表紙や挿絵といったヴィジュアル面をも含めてふんだんに引用しながら、つぎつぎと取り出して見せてくれる。

ちょっと坂崎さんの書斎へお邪魔して、若き日より蒐集してこられた、時代遅れの(ということは一世風靡の時代もあったわけだが)粋筆本を拝見しながらご高説(というか、おのろけ)を伺っているような良い心持ちにさせられた。

《ことのすべては古本屋さん巡りから始まった。
 これまでの、ぼくの著作のほとんどは、東京・下町、家の近くの小さな古本屋さんや、神田・神保町、あるいは中央線沿線の古書店、また古書会館やデパートで催される古書展、古本市で、好奇心のおもむくままに入手してきた雑本(もちろんホメ言葉です)類の力を借りてのことです。
 散歩がてらの古本屋さん覗きや、退屈しのぎの古書市巡りで、さしたる目的もなく気ままに入手してきたこれらの本が、あるときぼくに一つのテーマを囁きかけたりする。》

《この『粋人粋筆探訪』も、このような本の群れの囁きから生まれた。とはいっても、本当のところは自分でもわからないのだ。なぜ高校生のころから宮尾しげを、池田弥三郎、鶯亭金升といった人の本を買ったのか。いつのまにか辰野隆、高田保、菅原通済らの本を溜め込んでいたのか。》

粋人粋筆探訪_b0081843_21114935.jpg

粋人粋筆がいかなるものかは本書を通読していただくに如くはない。当方が気になったことについてだけメモしておこう。

まず渡邊一夫のあまり見ない装幀本が二冊、書影入りで紹介されている。『随筆寄席』(日本出版協同、一九五四年)と『随筆寄席 第二集』(日本出版協同、一九五四年)。西村義孝氏が作成した渡邊一夫装幀書目録にも後者はリストアップされていない(ただしリストは二〇〇三年当時ものです)。

辰野隆の『老年期』(要書房、一九五一年)所収「善友悪友」のなかに淀野隆三が登場していること。《空即是色の淀野隆三》とあるらしい。分ったような分らないような……。

出版関係では、前出の「日本出版協同株式会社」という出版社について教えられた。たしかにこの出版社は注目に値する、面白そうな本ばかり出している版元である。

また文藝春秋が『漫画読本』を文春の臨時増刊として初めて出版したときの逸話も京都在住者としては気になった。

《この増刊号が京都で一日で売り切れたということを田川さんから聞きまして、私はびっくりしました。新しいことの好きな京都で売り切れるということは、このロケット上昇に物凄い推進力を加えました。》(横山隆一「漫画読本ロケット」『漫画読本』終刊号掲載)

また、書物から実体験へ横滑りする叙述もときおり挟まれており、これがまたさすがこの業界に長い坂崎さんと唸らせられるものばかり。たとえば奥野信太郎の死に様について述べたくだりをこうまとめておられる。

《奥野が慕った荷風、また奥野を師とした草森紳一ーーなんなんだろう、この、ワガママにして贅沢な三人の文士の完璧ともいえる「行路病(行き倒れ)」的生の閉じかたは……。
 因みに、草森さんが永代橋詰のマンションの一室で本に埋もれて絶命したときの、第一発見者は、この本の版元の社長と担当編集者である。
 そして……その草森さんの著書『本が崩れる』(二〇〇五年・文春新書)の章タイトルを(草森さんのいたずら心から)書くはめになったのが、この、ぼく、というわけです。》

おお、そうでしたか……と呟き、片手を伸ばせば取り出せる棚にあった『本が崩れる』を引き抜いてみると、なるほど坂崎さん、見事な粋筆である。

粋人粋筆探訪_b0081843_2233827.jpg

とにかく著者がいちばん楽しんでいる。そして、その喜びが素直に読者に伝わってくる一冊。
by sumus_co | 2013-04-26 22:13 | おすすめ本棚
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