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田端抄/雷電/海鳴り

田端抄/雷電/海鳴り_b0081843_19581846.jpg

矢部登さんより『田端抄』其肆(書肆なたや、二〇一三年四月)を頂戴した。「下島空谷の中坂」は田端の坂について、芥川龍之介から下島勲(楽天堂医院)のことを中心に、下島が高く評価していた同郷(信州伊那)の俳人・井月の句集出版、そしてやはり同郷の島村利正が滝井孝作に井月を教えられ小説を手がける話へ、最後には芥川にもどって井月の句でしめる。

  降りものは雪ともつかぬ寒さかな

「久保田万太郎の家」も下島の『芥川龍之介の回想』から書き起され万太郎の田端時代と浅草への思慕が書物逍遥によってみごとに描き出されている。他に「清宮質文展の図録」と「私家版よろずひかえ」そして「覚書」。矢部さん『田端抄』、近頃では読んでいてもっとも気持ちのいい書物随筆になっている。ずっと続けていただきたい。

  *

『LEIDENーー雷電』No.3(雷電舎=東京都大田区東雪谷2-6-4-303築山方、二〇一三年二月五日)を安田有さんより頂戴した。安田さんの「吉本隆明追悼 吉本さんからーー(吉本さんへのきれぎれの手紙)」を読む。人生における吉本隆明との付き合いが振り返られており、安田さんの世代の吉本崇拝がいかなる性質のものだったか、じつによく分る内容だ。以前紹介した詩集

安田有『スーパーヒーローの墓場』
http://sumus.exblog.jp/14033427/

についての記述があるので拾っておこう。新宿ゴールデン街で酒場を経営していた頃、砂子屋書房の主人・田村雅之から詩集を出さないかと勧められた。著名人の解説を載せた方がいいと言われ、ねじめ正一と吉本隆明の名前を挙げた。

《田村さんに「ヨシモトリュウメイ」という名を告げたとき、たしか一瞬、田村さんから意外な表情と苦笑が返ってきたと思います。しかしその直後「ぼくがちゃんと頼んであげるから」という田村さんの力強い応えでした。その後、田村さんから吉本さんの生原稿を見せられたときには、跳び上らんばかりの嬉しい出来事でした。その内容は、自分には過分すぎる内容であると思えました。それを励みに、下手な呟きのような作品であれ、書き続けていこうと決心した次第です。
 しかし解説文のお礼の手紙を出すことも、直接お会いしてお礼を申すこともいたしませんでした。気おくれのようなものがあったのかもしれません。やはり、路で擦れ違った折、吉本さんに咄嗟に声をかけ、名前を名乗り早口にお礼を申しました。吉本さんは立ち止まり、微笑んでいらっしゃいました。》

当時、安田さんは吉本のアパート近くに住んでいたそうだ。情景が見えるようである。

  *

『海鳴り』25(編集工房ノア、二〇一三年五月一日)は杉山平一追悼特集とは銘打ってはいないが、追悼号になっている。「杉山平一さんを偲ぶ会」(二〇一二年一〇月二一日、ホテルグランヴィア大阪)の記録抄、杉山さんの詩集『希望』の現代詩人賞授賞式の様子を記した涸沢さんの「東京日記」など貴重である。

他には山田稔さんの「ある文学事典の話」はいつもながら引き込まれた。福音館から昔刊行された『西洋文学小事典』がちくま学芸文庫で復刊された(二〇一二年)ことにまつわって黒田憲治の思い出を紡ぎ出す。黒田は一九二四年徳島県池田町生まれ、三高から東大文学部仏文科へ進み、四五年卒業、四八年三月に全国書房へ入社している。そこで『フランス文学辞典』(一九五〇年一二月刊)を渡辺明正とともに編集執筆した。四九年十月退社。奈良女子大と神戸大学で講師となるが、その間、肺結核で療養、手術。一九六一年七月二九日歿。享年三十七。
by sumus_co | 2013-04-11 19:57 | おすすめ本棚
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