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ヴンダーカンマーとキャビネット![]() 昨日の話題のつづき。キャビネットについて海野弘『書斎の文化史』(TBSブリタニカ、一九八七年五月一五日、造本=松田行正)を繙いてみた。 《小さなキャビン(小部屋)を意味するキャビネットは、プライヴェート・ルーム(秘密の部屋)で会合するプリヴィー・カウンシラーの幹部、つまり、キャビネット・カウンシル(内閣)のこととなる。キャビネットが内閣のことを意味するのは十七世紀ごろからだが、内密な部屋という意味で登場するのは十六世紀である。 ガルドローブは、ローブ(ガウン)を置いておくところ、つまりクローク・ルームのことであるが、便所のことでもある。衣裳箪笥を意味することもある。このように部屋と戸棚(箱)のような家具とは、別々のものではなく、一緒に考えられるものなのである。》 また同書のエリック・マーサー『家具七〇〇〜一七〇〇』(一九六九)からの引用にもこういうくだりがある。 《中世末期に王侯貴族が〈キャビネット〉という小部屋を持っていた。そこには、必ずしも高価とは限らないが、珍しい物や、美しい物、個人的、歴史的記念品などのコレクションが保管され、それを眺めて気晴らしをするのであった。》 《キャビネットとともに、王侯たちは、しばしば〈エチュード〉を持っていた。それは小さな部屋で、キャビネットと区別できないこともあるが、珍奇な物の展示よりも、書き物机や書棚、それに伴う物を中心としていた。》《しかし一般の人が上級階級の趣味を獲得するにつれ、彼らは、より高価でないやり方でそれを満たさなければならないので、〈キャビネット〉の語は、その卑しい仲間〈ガルド・マジュ〉(鼠入らず、蠅帳)とともに、部屋として使われるのをやめ、以前には、より高い身分の家では部屋を必要とした用途のための家具にあてはめられるようになった。》 部屋から家具へ、一般化によって変容したというわけだが、ところが、この意見とは少し違った見方もある。小宮正安『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』(集英社新書ヴィジュアル版、二〇〇七年九月一九日)には次のような例が示されている。ヴンダーカマーとはドイツ語のWunder(不思議)とKammer(部屋)が合わさったもので、珍品蒐集室などとも呼ばれ、十五世紀イタリアで始まり、十六世後半にドイツ語圏へ広がりヴンダーカンマーあるいはクンストカンマー(人工の部屋)などの呼び名が生まれたのだそうだ。珍品には様々な骸骨も含まれるわけで、まさにスケルトン・イン・ザ・クロゼットは別におおげさな表現ではなかった。 ![]() 《キャビネットは当初から、万物の蒐集を目指すヴンダーカンマーと切っても切れぬ関係にあった。地球儀や天球儀、ワニの剥製等の大物ならいざ知らず、多様な小物を分類収納するにあたっては、キャビネットが重宝がられたのである。現存するものを見ればすぐにわかるが、キャビネットそのものが、非常に凝った作りとなっている。 たとえば、扉の前に嵌められたガラスである。当時、ガラスは手作りで、とても貴重だった。またキャビネットにふさわしい大きな一枚ガラスを作るとなると、それだけで職人の技を駆使した驚異と受け取られた。》 家具キャビネットは部屋キャビネットの不可欠の備品だったのだ。 《さらにはヴンダーカンマーそのものを指して、「クリオジテーテン・カビネット=珍品蒐集室」という言い方さえ生まれた。キャビネットには小部屋という意味もあるから、珍奇なもので埋め尽くされた空間という意味なのだろう。 ヴンダーカンマーに衰えの影が忍び寄るにつれ、キャビネットは新たな役割を果たしてゆくようになる。キャビネット本体が、従来の意味での「キャビネット・オブ・キュリオシティーズ(=クリオジテーテン・カビネット)」となったといえばよいだろうか。つまりヴンダーカンマーのアイテムを選りすぐって、一つのキャビネットに収納しようというのだ。ヴンダーカンマーのミニチュア版である。》 《こうして出来上がったキャビネット、その中身はヴンダーカンマーの蒐集品を収めていながら、はるかに洗練されていた。それはヴンダーカンマーが黄昏を迎えるにあたって到達した、究極の形態だったのか。あるいは、ヴンダーカンマーという前時代の遺物をどこかで尻尾のように引きずった、新たな時代のディスプレイのあり方だったのか。》 ![]() 大衆化ではなく形態の変化であった。ただ、結果としては、それが一般化へとつながっていることは間違いないようだ。 《手を伸ばせば誰にでも届き、量よりもむしろ質を重視したコレクションのあり方。それを可能にしたのがキャビネットであった。》
by sumus_co
| 2013-02-07 21:06
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