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林蘊蓄斎の文画な日々
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暮らしのイギリス史

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暮らしのイギリス史_b0081843_19325044.jpg

ルーシー・ワースリー『暮らしのイギリス史 王侯から庶民まで』(中島俊郎・玉井史絵訳、NTT出版、二〇一三年一月三一日)面白く読了。イギリス(およびフランスも少々)の過去から現代にいたる日常生活の変遷を無数の文献や画像資料から拾い上げて編み上げ、主題ごとに(目次参照)ひじょうに分りやすく、効果的な形で叙述している。まずは著者のその編集における技量に感服した。

ルーシーは歴史家であり、BBC FOUR で歴史番組の案内役もつとめるブリリアントな女性である。彼女のホームページで番組の一部が視聴できるので、ぜひご覧のほどを。

Lucy Worsley
http://www.lucyworsley.com

TWITTERもやっており、つい先ほどのツィートにはこんなことが書き込まれていた。Hampton Court などを管理するヒストリック・ロイヤル・パレスの主席学芸員だそうだから、いずこも同じ悩ましい季節かも。

《This morning at Hampton Court I'm going to what's in some ways the most important meeting of the year: final decision on next year's budgets》

本書からかいつまんで紹介したい項目はたくさんあるのだが、やはり書物に関する記述はメモしておかなければならないだろう。「クロゼット」の項。チューダー朝に始まった書斎のような小部屋である。

《内部装飾をこらし宝物を入れる押入れを組み込んだ、その小部屋は建築上、奥まった部屋かもしれないが、この空間は、幾世紀にもわたり住居のなかできわめて私的な場であると同時に、貴重な絵画、書籍、楽器を収納しておく場所でもあった。
 識字率が高まった中世末期、ひとりですすんで孤独にひたるという新しい風潮が発生してきた。読書行為と連動した孤独への志向は、わずかばかりの私的空間を必要とした。》

《クロゼットにはカトリックの「時祷書」、つまり宗教改革以前の祈祷書が収納されていた。修道院から流出した書籍は個人の手に渡り、信仰心が保持されたのである。国王エドワード四世(一四四二〜八三)は自らの衣裳担当者に命じて、愛読してやまない貴重書に衣服と見紛うほどの「装幀」をほどこしたーー青、黒色の絹のベルベットで造本し、刺繍、絹飾りをこらし、青い絹、金の「ボタン」と銅の留金をつけ、バラと王室の紋章を金箔であしらった。》

《クロゼットは世俗的な用途でも使用された。商人にとってのクロゼットは帳簿つけ、金勘定をする場所であった。家をあとにした子供への手紙をしたためることもあれば、好色本を隠匿しておく絶好の場所でもあった。》

《十七世紀の女性、一六七二年にローダーデール公爵夫人となるエリザベス・ダイサートは秘密多き女性であった。》《テムズ河畔の邸宅ハム・ハウスに夫人はクロゼットを二部屋所有していて、外側のクロゼットは来客用、内側のクロゼットは夫人の私用に、と用途をわけていた。危険なカトリック思想を明示した絵画、本棚二架にあふれる個人蔵書、そして漆塗り小箱がいくつかクロゼットにはおかれていて、それらの箱のなかには砂糖菓子と上質の茶が入っていたという。》

ローダーデール公爵夫人秘蔵の砂糖(菓子)や茶が貴重品だったことも他の項にちゃんと明記されている。

《砂糖は十六世紀に入って、西インド諸島でスペイン人経営の大農園から新たに供給されるようになってから、急速に普及していった。エリザベス女王はとりわけ砂糖を偏愛していて、ドイツ人訪問客が女王の黒ずんだ歯を見ても「砂糖の食べ過ぎからくる、イギリス人の宿痾」としても気にもかけなかったという。多くの目新しい高価な食べ物同様、砂糖は当初、媚薬として喧伝されていた。》

《今では想像できないが、かつて茶は目新しいが危険にあふれる飲み物と考えられていた。サミュエル・ピープスは「今まで飲んだことがない一杯の中国茶」(『日記』)を一六六〇年九月二十五日に飲んでいる。》

人間、危険で高価なものを内緒の場所にしまい込むのが習性のようである。話をクロゼットにもどすと、その後こういうふうに発展していったという。

《歳月をへてクロゼットは、二方向に別れていった。クロゼットは美術品などの貴重書を保存する保管庫として使用されるようになり、さらにキャビネットという大きな部屋へと拡張していき、やがて絵画、彫刻を展示するギャラリーへと拡大していったのである。今日における首相の「キャビネット」、すなわち内閣はこの部屋の名称に由来する。クロゼットすなわちキャビネットのなかで内閣会議が開催されたからであった。》

クロゼットとヴンダーカンマー(不思議の部屋)の関連性も気になってくるが、それにしてもなかなかのウンチクだ。今後も本書は何度でも参照することになる座右の一冊になるだろうと思う。この広範な内容を巧みに翻訳されたに違いない(原文参照していないため失礼ながら一応留保つきで)お二人の訳者には敬意を評したい。
by sumus_co | 2013-02-06 20:47 | おすすめ本棚
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