装幀という見地から今年手に入れた本でいちばん気になったのがこれ、『世界探偵小説全集7 ドイル集』(延原謙訳、博文館、一九二九年六月一八日)。とりたてて珍しいということもないようだが、探偵ものにはさほど興味がなかったためこれまで知らないでいた。とにかく百円だったのが何よりうれしい。
昭和四年だから紙ジャケットや函もあったのかもしれない。今、簡単に図像検索してみても、引っかかったのは同じような裸本の写真ばかり。乞御教示。文庫本のサイズ、漆黒の地券表紙(セミハードカバー)は布装である。朱で押した文字やケイの配置がピッタリ決まる。もともと黒い本が好きなのだが、これはとくにかっこいいと思った(下にある赤い表紙の本は昨日の『藤田嗣治と愛書都市パリ』図録です)。
また来年もシビレルような古本に出会えればと願いつつ。歳末の一首。
遠樹沈沈日已闌
嬌鴉聲裡海雲攅
不知成雨将成雪
且喜城中減暮寒
文化十一年(一八一四)十一月に菅茶山が江戸で詠んだ七絶より。この翌朝、江戸は一面の銀世界になったという。「不知成雨将成雪」はまさに「雨は夜更け過ぎに雪へと変るだろう、あああ〜ん」というおもむき。
みなさまよき新年をお迎え下さい。