
幕末のメモ帳。文中に万延元年(一八六〇)、文久二年(一八六二)の年号が登場する。多田宗太良の朱文円印が巻首と巻尾に捺されている。
出所はどうやら阿波(徳島)らしい。富田秋田町、伊月町は現在の徳島市内になる。岩田七左衛門といえば大坂冬の役で蜂須賀家の家臣の一人として家康より感状と賞賜を受けた同名の武将がいるが、その後裔なのかどうか。
難読漢字を書き付けている。手紙に用いる慣用表現なども羅列されている。
面白いと思ったのはこの絵。「ヲコリヲトス法」。ヲコリは周期的に悪寒と発熱を繰り返す病。マラリアらしい。足の指に灸をせよということか。
者病吉(物病?) 《一銅銭拾四文紙ニツツム火ニヤク》そして印を結んで呪文を唱える。これは真言密教の呪法のようである(?) 阿波は空海の縄張り。
最後は十六頁にわたって楽焼きの釉薬の調合が記されている。《此薬法ハ伏見富吉より申寄候》というメモも見える。セミプロだっただろうか。かなり詳しい調合である。


以上のようにまったく脈絡のない内容だが、そこがかえって「よろず心覚」の名前にふさわしく、持ち主や持ち主が生きた時代に対する興味を掻き立てられる。