
因果道士著・中島棕隠軒編集『都繁昌記』(田中屋専助、村上勘兵衛、吉野屋仁兵衛、丁子屋源次郎、慶応三年補刻)。安価だったが、題箋が剥がれてなくなっている以外はきれいな本だ。巻首に「青木」の朱文角印と「椹木禎」の朱文円印あり。
初刊は天保八年。新稲法子『都繁昌記註解』(太平書屋、一九九九年)という書物があるようなので内容はよく知られているのだろう(洛中洛外虫の眼探訪というブログの「
『都繁昌記』を読む」は参考になる)。

内容は京都の「乞食」と「セウベントリ・コエトリ・コエトリヤ」と「劇場(シバヰ)・優人(ヤクシヤ)」についてその現象形態と構造の両面を微細に描いている。それぞれの組織の構造とその経済を把握して紹介しているところが非凡であろう。描写も案外と平易である。
三都穴さがしとして同様な記事を孫引きしたことがあるが、とにかくいきいきと幕末の京都の世情を描き出していて楽しめる読物。

序によれば浪華蘭恵堂主人がたまたま書き始めの原稿を目にして金五両で全部の原稿を買い取ることを約束してくれたとある。そこでそれを意気に感じて先約の書林某へ断りを入れ一気呵成に書き上げたとか。《俚諺云拙速不如巧遅余甘受其嘲者歟》。五両を単純に五十万円と考えると、そうたいした額でもない。棕隠が執筆を思い立ったのは寺門静軒『江戸繁昌記』に刺激されたことによる。その静軒は十両以上もらった《則所換繁昌記一編不下十両》と同じ序には書かれている。とはいえ有り難い申し出であることは今も昔も変わらないだろう。ただ巻末には《次編三編追刻》と明記されているにもかかわらず刊行された気配はない。惜しい。