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APIED VOL.20/ルーフォック・オルメスの冒険

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『アピエ』第二十号(アピエ、二〇一二年九月二四日、表紙装画=山下陽子)が届く。今号は海外短編小説集がテーマ。それにしても十一年で二十号は見事。《明確な将来のプランはなく、とりあえず本誌を作れなくなればストップ、作る意欲が失せても長期休憩でいいかなと、固い決意うすく思い巡らせています。と控えめに低音で言いつつ、本誌なくしては甲斐のない人生です。》(編集後記=金城静穂)だとか。こういう覚悟がいちばんしぶとい。

巻頭、若島正「短編小説と私」にこんなくだりがある。二十歳くらいの頃、どこででも小説を読んでいたという。

《通学のバスの中でも読んだ。便所の中でも読んだ。あるとき、ヘンリー・ミラーの読書論を読んだことがある。ミラーによれば、便所は排便をする場所なのだから、そこでは一心に排便すべきであり、そこで本を読むなんて邪道だというのだ。実にもっともな説だと思うが、そう思ったところで、便所で読書をする癖が治るわけではない。食事のときも同じであり、家で食事をするときはさすがに遠慮するが、たとえば一人で外食するときなどは、まず確実に一、二ページは読む。
 悩むのは風呂に入るときである。何に悩むかと言えば、湯船につかっているあいだにちょうど読み切れる分量の短篇で、何かいいのはないかと考えるわけだ。あまり長いこと湯船につかっているとのぼせてしまうし、それに本も確実にふやけてくるので、湯船の中で読み終わらなければ、いったん出てタイルの上に座り込み、身体を洗わずにそのままの状態で読み切る、ということもしばしばある。とにかく、風呂場で読む短篇に何を選ぶかはつねに大問題であり、それを決めるだけで風呂に入っているよりも長い時間がつぶれてしまったりする。まあ、それはそれで読書人間にとって楽しいことなのだ。もしかすると、本は読んでいるあいだよりも読む前がいちばん楽しいのかもしれないのだから。》

以前書庫トイレを紹介したが、昔の人も三上(枕上・馬上・厠上)とはよく言ったものである。若島氏はそれに「皿上」と「湯上」を加えるという話である。善行堂は風呂で古書目録を読むと聞いて、なにもそこまでしなくてもとずっと思っていた。しかしながら同じようなことをする人はどうやら少なくないようだ。

APIED VOL.20/ルーフォック・オルメスの冒険_b0081843_2051209.jpg

海外短編小説集というテーマだが、今なら自分は何について書くかなと考えてみた(今回は書いていません)。先日取り上げたアルフォンス・アレーも悪くない。またアレーの後継者のような面も少しあるかもしれないが、この本、カミ(Pierre Henri Cami)の『ルーフォック・オルメスの冒険 Les Aventures de Loufock Holmès』(L'Atalante - Bibliothèque de l'évasion, 1997、オリジナル版は Flammarion, 1926)を挙げるのもいいかと思う。一話が一幕二頁ほどの二幕か三幕で終わるから風呂にはもってこい(?)

これはたまたまブックオフで見つけたペーパーバックだが、どうしてカミの作品を買ったかというと、ずっと前に読んだ赤塚不二夫の自伝にカミを愛読したというくだりがあって、なぜかずっと頭の隅に残っていた。赤塚が好きだというくらいだから想像がつくだろう。まったく奇想天外というかナンセンスの極み。アレーに似ているというのはいかにも科学的に荒唐無稽の筋立てを描いているからである。タイトルからしてシャーロック・ホームズのもじり。迷探偵ルーフォック・オルメスの大活躍、第二部は最凶のライバル・スペクトラの活躍の方に重点が置かれるのだが、そのまったくナンセンスな犯罪の数々、そして脱獄の手口は見事というか開いた口がふさがらない類いのおそまつぶり。それを大真面目に描くところに真骨頂がある。

例えば「悲惨強盗団」は捕まって閉じ込められた高い塔のてっぺんからボートに乗って空の上を漕いで(飛んで)脱走する。警察から協力を求められたオルメスはその謎を解く(「Je comprends tout! すべて分った!」というのが口癖)。じつは盗賊たちの乗ったボートはヘルツ波(ondes hertziennes)という「波」にのって飛去ったのであった。そこでオルメスは妨害電波を発して彼らのボートを転覆させる……はは。

ひとつフランス語を学んだ(一冊読んでもひとつしか覚えないところがミソ)。「レ・ミゼラブル les misérables」(あるいはアン・ミゼラブル un misérable 単数形)という単語が何度か出てくるのだが、それはヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』(「悲惨な人々」「哀れな人々」とされる)とは違う使い方だということだ。カミの用法では明らかに「悪党めら、悪党め」である。ユゴーもあるいはそういうつもりだった(あるいは「乞食たち」とか?)わけはないか。

ルーフォック・オルメス Loufock Holmés
http://www.aga-search.com/807loufockholmes.html

ピエール・カミ Pierre Cami
http://www.aga-search.com/407cami.html 
by sumus_co | 2012-09-27 21:46 | おすすめ本棚
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