林蘊蓄斎の文画な日々
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東京盛り場風景

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酒井真人『東京盛り場風景』(誠文堂十銭文庫、一九三〇年一一月一五日)。下鴨古本まつりの収穫のひとつ。某書店平台の和本の陰の小物箱の底に眠っていた。現在は『コレクション・モダン都市文化 第2期 第31巻 「帝都」のガイドブック』(ゆまに書房、二〇〇八年)に収録されているようだ。昭和五年の東京盛り場の様子が酒井真人の名調子で紹介されている。データ的には大雑把すぎて使えないものの時代の雰囲気はいきいきと伝わってくる。

《時代はもう汁粉屋の時代ではない。氷月に限らず、専門の汁粉屋はもう成り立たなくなつた。汁粉屋ばかりでなく、専門の鮨屋、蕎麦屋も年々減るばかりだそうだ。》(不忍池畔)

《今日は云ふまでもなく、映画時代である。灯ともし頃から、この辺は異様が[ママ]活気を呈し、これ等の劇場に殺到する群衆は、雲のごとく渦巻き流れる。伝明フアン、クララボウのフアン、入江たか子フアン、伝次郎フアン、ダグラスフアン、これ等入り乱れてもみ合つてゐる。しかじ[ママ]ながら、こゝの何よりの特色は、割引時の混雑である、八時のベルがなるのを待つ列は長蛇の如く時には映画館をとり巻くほどである。》(浅草)

《大震災直後は、幸運にもその火災から免れたばかりに、松屋、三越、銀座の村松時計店、資生堂、さてはカフエープランタン等、灰燼にかした帝都の中心は、こゝに移された如く賑や[ママ]つたものだつたが、その後三年四年のうちに、これ等の一時の出店は影をひそめて、昔ながらの神楽坂になつてしまつた。》(神楽坂)

《一時左傾の出版社として名をあらはした南宋書院は肴町通り、故有島武郎の親友足助氏の叢文閣、古本屋の竹中、いま盛業をしてゐる盛文堂、武田芳進堂、機山閣、そことは遠くなるが新潮社、盛り場をひかへて知識階級がこの近くにゐることを語る。》(神楽坂)

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《近頃、児童虐待で大部問題になつてゐるカフエー相手の少年少女行商人(?)が最も多く出入りするのは新宿であらう。十二三から七つ八までの男の児や、女の児が、四五枚の辻占を手にもつて、低級卑猥な歌を唄つて、カフエーの客から金をねだるのである。》(新宿)

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《盛り場に夜店がつきものであると同様、不良少年もつきものである。ここには時代のテンポの波に乗つた思ひ切つて大胆で、悪辣な不良の徒が出没する。無数のカフエー、安ホテル、駅待合室、往来の人間洪水、いたるところとして、かれ等活躍の場所たらざるはなしである。一時近代的不良少年少女は銀座を中心とするといはれてゐたが、漸時移動して新宿に集り、硬軟あらゆる手段を弄して良家の子女を誘惑してゐる。その数、数百、手口はちよつと素人には見当もつかぬ程、巧妙なので、山の手に子女を持つ家庭は充分に注意せられるがよろしい。》(新宿)

誤植が多いのはご愛嬌だが、文章はいい。酒井は川端康成、石浜金作、鈴木彦次郎、今東光と第六次『新思潮』(一九二一年創刊)を創刊し、『あこがれ : 抒情詩歌集』(教文書院、一九二一年)、二八年には雑誌『黄表紙』(黄表紙社)を発行しているから、新感覚派の流れに属するということになるのだろうか。この後は文学というよりも風俗ライターとしての活動が中心になるようだ。『カフエ通』(四六書院、一九三〇年)、『映写幕上の独裁者』(中央公論社、一九三〇年)、『三都盛り場風景』(誠文堂十銭文庫、一九三二年)。
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by sumus_co | 2012-08-15 22:27 | 喫茶店の時代
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