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故郷の本箱

故郷の本箱_b0081843_19515573.jpg

『上林暁傑作随筆集 故郷の本箱』(夏葉社、二〇一二年七月三〇日)読了。小説集と違ってほとんど読んだ記憶がなかった。「「枯木のある風景」の出来るまで」くらいかな、再読感のあったのは。それでももうずいぶん昔のことだ。本書の感想というか、読み方は「撰者解説」が申し分なく語ってくれているように思う。よって省略。買おうかどうしようか迷った者は「撰者解説」を読むべし。個人的なテーマで気になった所だけメモしておく。

「「枯木のある風景」の出来るまで」より。上野桜木町の宇野浩二の書斎と応接間について。

《階段を二階に昇ると、右と左に部屋が別れていた。左手の部屋は宇野氏の居間兼書斎であったようだが、食事もそこへ運んでもらって食べていたらしい。私は右側の応接室に通された。日本座敷に椅子と卓子が置いてあった。床の間には、「白玉の歯にしみ通る秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり」、「考へて飲みはじめたる一合二合の酒の夏の夕ぐれ」という若山牧水の大きな軸が、二聯下っていた。階段寄りの襖に接して、エブリマン叢書などの洋書ばかりを並べた小さな本箱が置いてあって、その上に前記芥川の文章に出て来る、芥川から贈られたゴーゴリのテラコッタ像が置いてあった。芥川は、動坂で骨董を扱っていた田村松魚(田村俊子の前夫)の店で買ったのだと、宇野氏が話した。南側の窓に寄せて置かれた長椅子の上に、小出楢重のガラス絵の裸婦が横たえられていた。(この絵は二科会における小出楢重遺作展に出されていた。)》

「枯木のある風景」(小出楢重の絵の題名)は昭和七年暮れ頃に脱稿したそうだからそれ以前の様子であることは間違いない。牧水のこの二つの軸は今なら相当な金額になるだろう。

撰者がとくに熱心に集めた古本エッセイも深く同感しながら読んだ。

《しかし、古本を漁る楽しみは、早稲田だとか、本郷だとか、神田だとか、眼の肥えた、言わば摺れからしの古本屋を歩くよりも、街裏や路地などにあるちっちゃな古本屋で、思いがけぬ本を、埃を払って手に入れるのが一番の楽しみである。而もそれは安くなくてはならぬ。会心の本を安く手に入れた喜びが、一番大きいのである。それはあらゆる骨董趣味に通ずるものであろう。
 いつか僕のところへ訪ねて来た或る編輯者は、徳田秋声と葛西善蔵と嘉村礒多の本を蒐めているというので、僕が荻窪から買って来た葛西氏の「子をつれて」(大正八年、新潮社)を見せると、葛西氏の本ではこれだけ持っていないと言って、「これは珍本ですよ、珍本ですよ」と何度も呟いては、汗ばんだ指でペエジをめくるのであった。僕はそれを見ると、「その本、あなたにあげましょう」と言いたくて、口の端まで出かかっていたけれど、危うく思い止まった。僕は、葛西氏の小説集では「馬糞石」を欲しいと思っているが、なかなか手に入らない。阿佐ヶ谷の本屋で、以前二十銭で売っていたのに、買わなくて惜しいことをした。》(「大正の本」)

これが本当の古本好きというものである…というか、こういう古本好きが好きだ。というか、上林暁が好きになった。何冊か古い上林暁の本を持っていたけれど、「その本、あなたにあげましょう」とあげてしまった。今からでは難しいかもしれないが、上林暁を安く見つけてみたい。

その他、ブランデンや井伏鱒二、古田晁らの回想も味わい深いし、「小説を書きながらの感想」にみる文学至上主義も、いいもの読ませてもらったという感を深くした。

最後に文中に登場する飲食店などの名前メモ(数字は頁)。

紅雀 134
三楽荘 166
ぴのちお 166
長崎屋 172
おかめ 179
みち草 179
by sumus_co | 2012-07-27 21:40 | おすすめ本棚
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