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酒場めざして

酒場めざして_b0081843_1948487.jpg

大川渉『酒場めざして 町歩きで一杯』(ちくま文庫、二〇一二年七月一〇日)。好きな町を歩いて、酒場で呑んで、原稿書いて、文庫になる…すばらしい。氏の著作は『東京オブジェ』(ちくま文庫、二〇一〇年)、『短編礼賛—忘れかけた名品』(ちくま文庫、二〇〇六年)、『文士風狂録』(筑摩書房、二〇〇五年)、『下町酒場巡礼』(共著、ちくま文庫、二〇〇一年)と筑摩文士の趣あり。着実な仕事ぶりである。『文士風狂録』では表紙画を提供させていただいたが、その頃一度個展に来て下さってお会いしている。

「最もうまいビールとは」…この一篇が光っている。これを読むと大川氏は体育会系である。じつは「最もうまいビール」とは関係のない部分がスゴイ。それは直接に読んでもらうとして、氏にとっての「最もうまいビール」とは以下のようなもの。一番うまいビールを飲むためには前夜からの準備が必要だという。吟醸酒などをグイグイやる。飲み過ぎてはいけない。翌日軽い二日酔いになるくらいがちょうどいい。昼頃まで横になって休み、午後二時頃、おもむろに起き出して少し汗ばむくらい歩く。そば屋に入る。季節は初夏か初秋。(一番うまいというだけあって条件がきびしいのだ)

《そして、いよいよビールを飲む。できればエビスかキリンラガーの中瓶で、あまり冷えすぎていない方がありがたい。肴は、板わさか焼き海苔。小振りのグラスにビールを注いできゅーっと飲[や]る。これがうまい。本当にうまい。朝食を摂っていないからのどが乾いている。それに前夜の酒がまだ残っているから、一種の迎え酒だ。一本飲み干すころには、ほどよく回ってくる。日暮れまでには時間があるが、店の中にいると、昼か夜か分からなくなって時間の感覚が麻痺してくる。前夜からずっと飲んでいるような気がする。そして、もう一本……。
 これが、目下のところ、最もうまいと思うビールの飲み方である。(二〇〇一年七月)》

かなりのこだわりだ。当然ながら町歩きにもこだわりがある。立石を訪ねたときにはつげ義春の名作「大場電気鍍金工業所」の舞台になったメッキ工場(実際に少年つげ義春が働いていた)跡地を探す。あるいは色川武大の傑作「生家へ」から、その生家を訪ねる。牛込の矢来町。新潮社のすぐそば。

《路地を行ったり来たりしていたら、三階建てのマンションのような建物の玄関ドアのわきに「色川」の表札があるのを見つけた。おそらくここが生家のあった場所で、今は縁戚の方が住んでおられるのだろう。それだけ確認できると、何だかほっとして、牛込中央通りを渡って能楽堂の方へ行った。》

白山の本妙寺では天野宗歩の将棋の駒形の墓に詣でる。大川氏の将棋好きについては触れたことがあったような気がする(小学生のころからNHK杯トーナメントを四十年以上視聴しつづけている)。そして、中落合の佐伯公園で佐伯祐三のアトリエ《の中に立ち、窓から入ってくる光を浴びながら、部屋の雰囲気を肌で感じ》たりなどもしておられる。これらの散歩には100%共感する。四つも年下とは思えない。

中原中也「宿酔」にも触れておられるので、全文を掲げてみる。引用は『中原中也詩集』(潮文庫、一九七二年)より。

 朝、鈍い日が照つてて
   風がある。
 千の天使が
   バスケットボールする。

 私は目をつむる、
   かなしい酔ひだ。
 もう不用になつたストーヴが
   白つぽく銹びてゐる。

 朝、鈍い日が照つてて
   風がある。
 千の天使が
   バスケットボールする。

「千の天使が/バスケットボールする。」について氏は《いずれにしても肉体的な不快感を表しているものと長い間思っていたが、最近は飲み過ぎたことへの後悔や焦燥感など精神的な不快感を表現したのではないかという気がしている》と書いておられる。

どうやら「千の天使 mille anges」はランボーから取られているようだ。「Mémoire」(記憶)のIIIにこういうくだりがある。

 leur livre de maroquin rouge ! Hélas, Lui, comme
 mille anges blancs qui se séparent sur la route,
 s'éloigne par-delà la montagne ! Elle, toute
 froide, et noire, court ! après le départ de l'homme !

 赤いモロッコ皮の本を読んでいるというのに! ああ、彼は、
 街道の上で離れ離れになる千の白い天使たちのように、
 山の彼方に遠ざかる! すっかり冷え切って、
 黒く染まった彼女は、走る! 出発した男の後を追って!

鈴木創士訳。この前後の連も含めて非常にカラフルなイメージ(赤いモロッコ革の本、白い天使、黒い彼女…)が次々と並べ立てられている作品である。《千の白い天使たち》はフランス語の並びでは「千の天使白い」。二日酔いとは無関係のようだが、これをちょいと借用、ものさびしい白昼夢にしてしまうのが中也らしい。すでにランボーを読み込んでいたことも分かる。そして実はこのランボーの表現もまた古い賛美歌の歌詞「Mille Angelorum millibus」(千の天使、幾千の天使)から取られているそうだ(ラテン語訳中原中也「宿酔」あるいは千の天使考)。

ミル(mille)は千という意味だが、具体的な数ではなく単に「たくさん」という意味でも用いられる。例えば「ミル・メルシー」(ほんとにありがとう)のように。日本語にも「ちしほ(千入、千汐)」(幾度も幾度も染めること。実朝「くれなゐのちしほのまふり山のはに日の入るときの空にぞありける」)とか「ちへ(千重)」(たくさん重なること)という表現があるのと共通する。

とにかくたくさんの天使(悪魔じゃなくて天使!)がバスケットボールをするという映像が、ガンガンする宿酔の不快感をちょっと複雑にしてみせる。やはり肉体的な苦痛と考えていいと小生は思うけれど。
by sumus_co | 2012-07-22 21:37 | おすすめ本棚
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