熊田司さんの個人雑誌『えむえむ』第三号(二〇一二年七月一日)が届いた。扇(あふぎ)特集とは小粋な。シャルル・クロスの「マドリガルーーハミルトン夫人の扇の面より訳出したる」もそうだし、自伝的エッセイ「一九四九年・神戸(承前)」の冒頭、神戸港を「扇の港」とか「扇港」と呼ぶという事実の指摘からはじめておられるあたり、何とも凝り性の熊田さんならではであろうか。このエセッイでは父上・三上忠雄の文学的営為を残された数々の同人雑誌などから推測しておられ、ある意味でたいへん貴重な神戸文学史(津軽文学史でもある)の一頁という気がするのである。それにしても活版刷やガリ版刷のなんとも好ましい同人雑誌の佇まい……。たまらん。
熊田コレクションから呉春「松に芭蕉図画稿」を解説した見開きにも感服した。先日の高津神社にも持参されており、小生も実物を拝見した。松なのだろうが、松らしくない線描が、じつにユニークだと思った。高津では呉春かどうかやや疑問視する方も居られたようだが、本稿では池田時代の作と断定されている。かなり自由な柔らかい描写に質の高さが認められる。
熊田さんは四月より和歌山県立美術館の館長に就任された。その多忙のなかで予定通りに刊行されたというのも几帳面な性格の現れであろう。和歌山県美はしばらくぶりに田中恭吉展を開催するようだ。
生誕120年記念 田中恭吉展
会期:2012年9月1日(土)〜10月14日(日)
http://www.momaw.jp/exhibit/after/-googl.php
『えむえむ』第二号(二〇一二年二月一日)
http://sumus.exblog.jp/17650397/