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21世紀の落語入門![]() 小谷野敦『21世紀の落語入門』(幻冬舎新書、二〇一二年五月三〇日、ブックデザイン=鈴木成一デザイン室)をご恵投いただいた。深謝です。とは言うものの、落語のことはほとんど知らない。とは言うものの、われわれの子供時代にはテレビでかなり落語を放送していた。見たくなくてもけっこう見ている。まあテレビで見る落語だから寄席とはまったく違うのだろうが、小谷野説によれば、 《近ごろ多い、落語を聴くなら寄席へ行け、落語会へ行け、といった、現物を見なければならない、という言説への大いなる疑問がある。》 《グレン・グールドというピアニストは、ある時期からコンサートの類いを一切やめて、レコードだけを出すようになった。私はふと、いずれグールドのように、生身の口演はせず、CDないしはDVDだけを出す、という落語家が出てもいいんじゃないかと思う。 むろん私も、寄席へ行ったことはあるし、独演会とかホール落語へ行ったことはある。だが、私にとっては、深夜、寝る前に聴いた落語のほうが、遥かにすばらしい、豊かな鑑賞体験だったのである。》 《私は「現場主義」というのが嫌いなのである。》《その昔、蓮實重彦が、野球が好きなら野球場で観ろ、というようなことを言ったのに対して、それは野球場がある大都会に住む者の勝手な言い分ではないかと書いたことがある。するとさる先輩から、蓮實先生にとっては、大都市に住むのも才能のうちなのだ、と言ってきた。まあシャレ(冗談)だろうが、けったくそ悪い。》 ということなので、小生にもそれなりの鑑賞体験はあると言えようか。ついでながらこの反現場主義は美術にも飛び火している。 《美術の「現場主義」とも言うべき現物主義となると、さらに鼻もちならないものがある。へたをすると、買って持っていなければ美術の価値は分からない、などと言うのだが、もちろん金持ちが言うのである。》 ははは、まあ、そういうきらいもあるかもしれない。小生、いちおう美術が専門なので、思うに、作品の現物を見るのと、画集やネットの画像を楽しむのは、まったく別の行為であろう。作品を所有するとなれば、さらに別の次元である。これは優劣ではない。作品を所有したからといって作品の価値が分かるわけではない。そんなこと言い出したら、いかなるジャンルにおいても評論は成り立たないだろう。そう言う意味で、本書は「評論」全般に対しての問題提起にもなっているし、小谷野流の定義にもなっている。 ベンヤミンは《複製技術のすすんだ時代のなかでほろびてゆくものは作品のもつアウラである》(『複製技術時代の芸術』川村二郎訳)と書いているが、小谷野氏はもちろんこの言葉に触れつつ、そうではないのだ、と主張しておられるようだ(ベンヤミンを否定しておられるわけではないが、ここでも金持ちへの反感を表明しておられる)。要するに複製技術にもアウラはあると。アウラは《どんな近距離にあっても近づくことのできないユニークな現象》(同前)だとすれば、カセットテープで聴く落語にだってアウラはあって不思議じゃない。要するにアウラは受け手の問題でもある。 落語を最後に聴いたのはいつだろう? そうだ、2008年6月2日に東京古書会館の落語会で瀧川鯉昇を聴いて以来、ほとんど落語らしいものには触れていないように思う。しかし本書における小谷野先生のウンチクをあれこれ読んでいるとムショーに落語が聴きたくなった。何と言うありがたい世の中。ユーチューブでたいていのところは見られるのだ。先生が熱っぽく語っている立川談志の「黄金餅」も早速探し出して視聴させてもらった。どうも昔聴いた覚えのあるような話だ。天才と言われるだけはある。ただしあまり笑うところはない。落語は笑いの芸ではないと小谷野氏も断言しておられるように。 こうなると小谷野氏の選ぶ名人たちをひと通り聴いてみるのも久方ぶりの落語鑑賞体験として楽しいかも知れない。誰を推しているのかは、直接この新書を手にしてお読みいただきたいが、まったく知らなかった川柳川柳(かわやなぎせんりゅう)の「ガーコン」とは一体なんだろう? 《若手ではないが、川柳川柳も、好きな落語家である。かといって、「ガーコン」以外に何があるのかと言われるかもしれないが、「ガーコン」があればいいのである。私はもう八年くらい前か、初めて「ガーコン」を、テレビで「笑話歌謡史]と題して演ったのを聴いて、軍歌マニアになってしまったことがある。》 と思って探したところありました。小生は軍歌よりジャズのモノマネが抜群だと思う。歌はうまいが、これは落語かな? しかし小谷野氏が好きだという理由はよ〜く分かる気がする。小谷野ファンならむろんだろうが、ファンならずとも本書さえ読めば分かっていただけると思う。 小谷野敦ウェブサイト http://homepage2.nifty.com/akoyano/index.html 猫猫塾 http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/
by sumus_co
| 2012-05-30 21:52
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