
四月五日、パリのサザビーズにおいてアントナン・アルトーの自画像デッサンが2,136,750ユーロ(およそ二億三千万円)で落札された。これは著述家(画家ではない)のデッサン一点の額としては史上最高値。アルトーと親しかった画商ビエール・ローブ(Pierre Loeb)の娘フロランス(Florence Loeb)が旧蔵者だが、昨年亡くなったために売りに出された。落札したのはコレクターのマルセル・ブリアン(Marcel Brient)。
一九四六年一二月一七日のサインがある。アルトーが精神病院での監禁を解かれた直後に制作されたと見られ、翌年ローブが彼の画廊でブラック、ピカソ、エルンストらとともに展示した。フロランスは十六歳のとき父の画廊でアルトーと知り合い、その瞳と人柄に電撃的に魅了された。後に詩人・劇作家・画家となったフロランスはこの自画像を終世身近に置いていたという。
フランスの文化相は三月三十日付けでこれを国宝(trésor national)に指定し、フランス国外持ち出しを禁止した。ただし三十箇月、その間に政府は買い取りの努力をする(ポンピドウ・センターが取得を表明)。同時にミッシェル・フーコーの原稿類(四十年間にわたる手書き原稿やタイプ原稿、総数37,000点)も散逸を防ぐため国宝指定となり、国立図書館(BNF)がメセナによって買い取ることになるようだ。
L'autoportrait « photomaton » d'Antonin Artaud vendu 2,13 millions d'euros chez Sotheby's

豪勢なお話とは一転、ぐっとせこく。先日『アントナン・アルトー全集第1巻』(現代思潮社、一九七一年一〇月二五日)を格安で買ったら挟まっていた月報「ビルボケ1」(ビルボケ bilboquet はけん玉の意)。B5判三枚二つ折り十二頁。渋沢孝輔、粟津則雄が執筆、肖像三点と手紙の写真が載っている。この月報によればアルトー全集は十一巻および別巻の全十二冊という途方もない計画だった。実際にはこの第一巻を出しただけで挫折したのだけれど。

二十歳頃のアルトー

一九二三年頃のアルトー(二十七歳)
アルトー全集をぱらりぱらりと拾い読みしているとこんな文章があった。「ローマ教皇への上奏文」(一九四六年)冒頭。
《一、私は洗礼を受けたことを否認する。
二、私はキリストの名前の上に糞をたれる。
三、私は神の十字架の上で手淫する[以下略]》
なぜこの部分が目に留まったかというと、不思議なことに、数時間前に山路閑古『古川柳』(岩波新書、一九八二年十九刷)でつぎのような川柳を読んだばかりだったからである。
《仏の前にせすりぞかく
さながらにしたくぞ思ふ文殊師利》
『犬筑波集』(一五二四年以降成立)に見えるそうだ。ということはアルトーより四百年以上前になるのだが、ブラスフェームというか涜聖の発想がまったく同じである。
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