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三条西実隆

三条西実隆_b0081843_2063062.jpg

京都文化博物館で開かれている「ホノルル美術館所蔵北斎展」のチケットを頂戴したので早速見てきた。北斎については日を改めて書くとして、同じ美術館内の下のフロアで「麗しの京美人展」と「古代学協会所蔵古文書・古典籍の世界」を見る事ができたのはラッキーだった。美人展は益利、長沢芦雪、祇園井持、幸野楳嶺、甲斐庄楠音、上村松園など佳作揃い(京都府コレクションだとか)。

古代学協会コレクションでは東寺百合文書から散逸したらしい「七条令解」(平安時代)の古い書類をはじめ古文書がいろいろ出ていたが、おお、と思ったのは三条西実隆の「魚魯愚抄」(室町時代)十冊。手紙の反故紙を使ってノートブックを作り除目(諸官を任命すること、またはその儀式および任官した者を列記した帳簿をも指す)に関するメモを残している。清書するための原稿のようだ。

実隆については原勝郎『東山時代に於ける一縉神の生活』(講談社学術文庫、一九七八年)が抜群に面白い。それによれば、実隆はよほどの文字魔だったとみえ、漢文日記『実隆公記』には、康正元年(一四五五)に生まれ天文六年(一五三七)に歿するまでの八十二年の生涯において二十歳のときから八十一歳にいたるまでの六十一年間のことが書き留められているという。また実隆は文明九年に権中納言となり侍従も兼ねていたが、その実際の仕事は書写と校合であった。能筆で文字にも造詣が深かった実隆は頻繁にこの用をやらされた。数多くの絵巻や絵詞、歌集、文集を勅命のみならず宮家や武家からの依頼によっても書きに書いた。しかも、その上に日記を欠かさず付けていた。文字魔といわずしてなんと言おう。

《以上の他に実隆は、禁裏の仰せによって浄土双六の文字などを認めたこともあり、また人のために将棋の駒をも書いた。将棋の駒を書くということが、如何にも書家の体面に関するとの懸念があったのか、明応五年に宗聞法師から頼まれた時には、予不相応、未書試物也、不可叶(予相応せず、未だ書き試みざる物なり。叶可からず)といって、これを断ったのであるけれど、その翌年姉小路中将から懇望せられ、再三堪えざる旨を述べて辞退したがきかれず、已むを得ず書いて遣った。すると続いて伊勢備中守からしての所望があった。いったん筆を執った上は断ることも出来ず、すぐさまこれを書いて遣った。それからして同様の注文が追々とあったらしく、書いて遣った先きの人に招かれて、己れの書いた将棋を翫び、大に興を催したことなどが、彼の日記に見えておる。》

将棋の文字を名筆が書くことは室町時代から行われていたのだ。そして将棋駒とは違って『源氏物語』の書写に実隆はとくに思い入れがあったらしい。自分用に筆写した五十四帖を入れるために大工を呼んで櫃を造らせている。しかしそれをたってと懇望され黄金五枚千五百疋で某に割愛した。後年、実隆はもう一度源氏を筆写したらしく、それも二千疋で売却したという。

で、その源氏がどんなものかというと、こんなものである。『本郷』七十四号(吉川弘文館、二〇〇八年三月)の表紙より「源氏物語 三条西実隆ら写 室町時代 紙本墨書 54冊(各)16.8×16.8cm」、吉川史料館蔵(山口県岩国市)。解説によれば大内家に仕えた陶興房(多々良持長)の依頼によって制作したことが奥書に記されている。総勢三十八名の能筆家たちが書写したという。室町時代には大内家は京都の公家たちを庇護した有力大名であった。蒔絵の箪笥箱は江戸時代の作。文庫本に挟んでいたので折り目がついている、あしらかず。
三条西実隆_b0081843_206623.jpg

竹村俊則『京の墓碑めぐり』(京都新聞社、一九八五年)より「小倉山中腹の三条西家墓域内に建立されている三条西実隆の墓」。右京区嵯峨二尊院内。実隆が七十二歳のときに作った寿墓だそうだ。歌集『再昌草』(一五二六)に《二尊院山の上に逆修の墓を建てをくとて》と詞書をして詠んだ歌が見えるという。

 動きなき巌ならなん苔の下影かくすべき跡のしるしは

三条西実隆_b0081843_2055670.jpg

by sumus_co | 2012-02-11 21:27 | 雲遅空想美術館
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