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絵に生きる 絵を生きる![]() 島田誠『絵に生きる 絵を生きる』(風来舎、二〇一一年九月一五日)読了。島田さんは小生もこれまで三度ほど個展をやらせてもらった神戸のギャラリー島田のオーナーである。海文堂書店での併設時代も含めて三十年を越えた画廊経験のなかで、島田さんが惚れ込んで、肩入れしてきたウルトラ・マイナー級のメジャー美術家たち五人の人生と作品を熱く語っている。 その五人とは、松村光秀、山内雅夫、武内ヒロクニ、高野卯港、石井一男である。石井は情熱大陸に出演して以来完売の個展を続けている稀有な例外だが、いずれも島田自身が《一途に絵を描くことしか考えていなくて、でもなかなか認められることもなく、自分の魂に忠実な無名の作家たち》と書くような人たち、人たちというよりも変人たち、最上級の形容を使えば求道者たちだ。小生も武内さんとは同じ時期にG島田で個展を開いたこともあり、わりあいと親しくお話したことがある。石井さんとは何度も会ってはいるが会釈程度、テレビ番組からも分かるようにとてもシャイな、しかしオシャレな方である。その他の方々は直接存じ上げない。作品を通してのみ。そのくらいのつき合いにしておいた方が絶対によろしい、そんな雰囲気が濃厚な画家であり、作品なのだ。島田さんが惚れ込む理由もたぶんそこにある。その衝動がどこから来るのか、それは明らかにされてはいないが、とにかく、見るからに危なっかしい、ダメダメな画家をこよなく愛するのだ。それはよく分かる。 画廊経験と書いた。画商とは書かなかった。絵を売るわけだから島田さんはむろん画商なのだが、必ずしも画商ではない(必ずしも絵を売らない、いや売れる絵を扱いたくないような雰囲気もある。石井さんの絵が即日完売となると非売の個展をやったりするのだから)。そのジレンマというか、迷いが本書の随所に披瀝されている。 《山内雅夫先生にいつも「島田さん、あなたが展覧会をやるということは、あなたが何を見、何を考え、どう生きているかを表現していることです。そのことを厳しく考えてください」と言われている。まだまだだめです。ビジネスの助平根性が顔を出している。でも作家を発見し、作品を発見し、うちのギャラリーを通じて社会にコミットしてゆくことは使命だと思っている、全力でやっている。》 《画家と画商と収集家との関係はまことにデリケートである。》《表面的な付き合いで、当たり障りのない誉め言葉をいうのはたやすい。売れれば大事にし、売れなければ離れるのが日常の風景である。でも、長く付き合い、その生活まで何がしかの責任を感じ、評価を定めていく仕事が私の役割であると感じると、時には厳しくならざるをえない。》 《画家とお客、とりわけ収集家との関係もむずかしい。作品を買ってくださることはかけがえのないことである。しかし終生の信頼関係をもてることは稀である。うちの画廊を主たる発表の場所にしている作家たちは多いけど、独占的な契約をしているわけではないし、その力もない。したがって、他の画廊で発表することを妨げるわけではない。しかし、自ずから信頼して守るべきルールはある。それを話しあって、確認しながら歩んでいくのが私たちのような画廊のやり方である。》 三十年やってきただけのことはある。言葉の裏にさまざまな苦い経験が透けて見えるようだ。島田さんのやり方がすべてではないが、画家というロクデモナイ人種とコレクターというこれまたトンデモナイ人種の板挟みはどんな画商でも経験していることだろう。その経験から導き出された島田哲学がこれから画廊を経営してみたいと思う人にはぜったい役に立つように思う。そんな人がいたらぜひとも一読をすすめたい。ただし画家になりたいという人にはすすめない。 例えば、石井さんの絵を非売にした理由を述べたくだり。 《この時代に絵を買うために行列ができ、初日完売が続くなどというのは、考えられないことである。製造品であれば増産すればすむことである。あるいは需要供給の原則で価格を上げればいいわけである。そこで納まるところが商品としての作品の価値であるというのが普通の考えである。でも、それは違うと思う。 私は、こんなことを夢想する。いま水は蛇口をひねれば出てくる。どこでも「美味しい水」と称してペットボトルで買うことができる。しかし、石井さんは、人が足を踏み入れることのない山奥で、地下深くに長い時間かかって貯められてきて、それがたまたま地上に溢れでてきて私と出会った、喩えようもなく清浄な自然水だと思う。 もちろん、水源は枯れてはいない。汲めば、いくらでも汲めるかもしれない。しかし、地中深く、沈黙の過ぎゆく時とともに貯えられ、大地に抱かれ醸成されていたことこそが重要だと思うのである。だから、多くを描かないでほしい。大地と同じようにゆっくりと抱いていてほしいと思う。 そんな貴重な水であれば、もっと値段を高くしたらいいと迷わないでもない。 でも、何か違うと思うのである。本当に必要な人に届かないというのはいけないのである。さらに画商としてあるまじき発言であるが、買わなくてもいいとすら感じるのである。これからは、石井さんの作品をゆっくりとご覧いただく小さな美術館のような展覧会を徐々に増やして、静かに多くの方に見ていただく努力をする。》 う〜ん、洲之内徹は盗んでも自分のものにしたいと言ったが、エコロジスト島田さんは別の方法で自分のものにしたいようだ。これは悪意で言うのではない。そういうエゴがなければ三十年以上も画廊の経営などは続けられなかっただろう。自分のものにしたい……エネルギーの源はこれである。エピローグにある次のセリフも決まっている。 《いま、身を削って表現に命を燃焼させている作家の作品は、どんな巨匠の名画よりも尊いと感じる。》 異論もあろうが、ひとつの見識だ。島田さんの画廊人生を要約する言葉だ。
by sumus_co
| 2011-09-27 21:43
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