飛兎出版が二〇〇五年に再刊した高祖保『禽のゐる五分間冩生』(元版は、月曜発行所、一九四一年七月一五日)がやはり整理中に現れた。探していたのでうれしい。タテ十五センチ、本文二十頁の愛らしい冊子。これを扉野氏からもらったときには「高祖保、誰それ?」という感じだったが、扉野氏はいつも以上にニコニコと会心の出来ばえだというふうに手渡してくれたのを覚えている。
ウロボロスの回転氏が《京都の善行堂で、復刻版を山本氏に見せてもらったことがある。表紙の貼り絵がかわいい、小さなポケット詩集だった。》と書いておられるのがきっとこれと同じものだろう。
関連記事=高祖保『禽のゐる五分間写生』
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本書から一篇引用してみよう。改行、行分け、仮名遣いは本書のまま。旧漢字は改めた。
浜の植木市
ほほう これが⦅凌霄[ルビ=のうぜん]かづら⦆ですね
ーーはい さやうで
これは⦅銀木犀⦆
ーーさやうでございます はい
これはまた かあいい⦅大王松⦆ですね 君
ーーはい はい どうも…
これは⦅榧⦆の細木 あれは⦅あすならう⦆
だな
ーーよくごぞんじで はい…
おや 雨を呼んでる⦅からかさ樅⦆ 白秋の
うたにある さう からかさもみのしだり
尾の傘 あの風情は 雨に一段とふさはし
い…
ーー旦那 どれにいたしやせう
凌霄かづらの精 といつたていの親爺
たうとう 痲れをきらしたらしい…
植木むらの てつぺんを透して
一碧の 海
Empress of Canada の淡いけむり
⦅はい⦆を五つばかり あたまをひとつさげ
させ
わたしは懐をでた ギザのある銀貨一枚
いまは
ひょろひょろの 見るかげもないヒマラヤ
杉いつぽんになつて
わたしの庭へとかへつてくる
詩句の蛇足的な補足。ギザのある銀貨は五十銭。現在の2000円程度に当るだろう。ヒマラヤ杉の標準的な苗木は今もだいたいそれぐらいの価格のようだ。「
Empress of Canada」は カナダ太平洋汽船(Canadian Pacific Steamships)の発注によりスコットランドで一九二〇年に建造された客船。二二年に就航しカナダ西岸と極東(日本、香港、中国など)との間を三九年まで運行。同年兵員輸送に転用され、一九四三年に西アフリカ Cape Palmas 沖でイタリア潜水艦に撃沈された。関東大震災の直後九月四日に東京港に入り被災者を神戸まで運ぶなどの救援活動をしたという。