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指導者はこうして育つ

指導者はこうして育つ_b0081843_20342772.jpg

柏倉康夫『指導者はこうして育つ フランス高等教育 グラン・ゼコール』(吉田書店、二〇一一年九月九日)読了。おぼろげにしか知らなかったフランスの教育制度の姿をくっきりと見せてくれる労作。具体的な例を挙げつつ小学校、中等学校からグラン・ゼコール(単数形ではグランド・エコール)まで簡潔に、しかも詳細に(例えば二〇一〇年のバカロレアの国語問題が掲載されている)綴られて面白くもあり、参考資料としても使いでがある。

グラン・ゼコールとは何か? 詳細は本書を読んでいただくに如くはないが、ごく簡単に言えば、ナポレオンが革命後に作った高等教育機関である。大学とどう違うのか? 例えばパリ大学は一二一一年にローマ教皇により正式に「大学」と認められたという事実が示しているように宗教教育機関であった。その神学部をソルボンヌ(元はソルボンの作った学寮)という。対してグラン・ゼコールはもっと実践的である。一七九四年に土木技術者を養成するエコール・ポリテクニックがまず作られ、つづいて師範学校であるエコール・ノルマル・シュペリュールができた。

《ノルマリアン[エコール・ノルマルの現役学生と、かつて学んだ人]は、民主主義によってすべて平等となった二五〇〇万人の共和国にあって、人びとの理解する力を、世代から世代へと受け継ぐことを目的とする計画の実行者である。この地上ではじめて、真実、理性、哲学が教えられるのである。》(エコール・ノルマル設立の主導者の一人プール・ジョゼフ・ラカナルの書簡より)

ようするに教育の主導権をカトリック教会から奪って革命精神に沿った市民を育てるというのがその基本方針であった。

過去のグラン・ゼコール出身者の例をあげてその業績などを紹介している章も要領よくまとまっている。ガロア、クーザン、ミシュレ、パストゥール、クレットマン、ロマン・ロラン、ニザン、サルトル、アルチュセール、フーコー、阿部良雄。

なかではルイ・クレットマンに関する記述が興味深い。彼はエコール・ポリテクニックを出て一八七六年(明治九)に横浜に着いた。ときに二十三歳。明治政府は兵部大輔・大村益次郎らの主張によりフランス式の兵学を採用することになっていた(海軍はイギリス式)。そのためにフランスから軍事顧問団がやってきたのである。

クレットマンらはまず三宅坂の旧・井伊掃部頭屋敷(現・憲政記念館・国会前庭等)に寄宿、のちに番町に新宅を与えられた。そこから市ヶ谷台に明治七年十二月に開校した陸軍士官学校へ通ったそうだが、二年間の日本滞在中、クレットマンは丹念に日記をつけ、数多くの写真を撮影した。それら膨大な資料は、孫のピエール・クレットマンが整理して二冊の私家版として一九九六年に出版するまで全く忘れ去られていたという。

《孫のピエール・クレットマンは亡くなる前、二〇〇二年九月には、個人的な手紙と日記を除く史料を、コレージュ・ド・フランスの日本学高等研究所に委託した。これらのうちのクレットマンが撮影または蒐集した五〇〇余りの写真の内の二七二点は、コレージュ・ド・フランス日本学高等研究所の松崎碩子他の監修で、写真アルバム『フランス兵士が見た近代日本のあけぼの』として刊行された。》

ということである。文中「コレージュ・ド・フランス」とは何ぞや? これもやはり本書を参照していただくに如くはない。

なお本書は吉田書店(http://www.yoshidapublishing.com/)の処女出版作でもある。店主の御挨拶にいわく

《出版という仕事を通して、1人でも多くの人が幸せな暮らしを送れるような社会をつくる一翼を担うことができれば、これ以上の喜びはありません。学ぶことの楽しさ、大切さを、著者、読者の皆様とともに味わいたいと思います。》
by sumus_co | 2011-09-16 21:58 | おすすめ本棚
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