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賽の一振りは断じて偶然を……![]() マラルメは詩を《最終的には版画だ》とみなして《テクストの表象に意味をあたえようとした》。マラルメが「賽の一振り」で望んだ形態上のプランは「翼」である。翼はギリシャの作家ミシアスが自らの造形詩に与えた形態と同じである。 古代の造形詩についてはアポリネールの「カリグラム」を紹介したときに少しだけ触れたが、探してみると、古代から現代にいたるヴィジュアル・ポエトリーの歴史をイメージ付きで説明してくれているサイトがあった。ミシアスの作例も見ることができる。 VISUAL POETRY FROM ANTIQUITY TO THE PRESENT DAY http://www.dankoster.com/visualpoetry/ 《マラルメは、「賽の一振り」によって、詩を新たに創造したのである。そこでは無韻の詩句が〔ページの上に〕ばら撒かれたように配列されている。詩全体は鏡の表裏のような二ページを一面とする紙面の上に憩っている。その主題は、一方は、波、大洋、孤独、暗礁、夜、絶望。もう一方は、垂直方向の、空、星座、星、宝石である。》 ![]() 《賽の一振りとは何か? 偶然の賭けは一つの行為、いささか迷信的な行為を仮定している。これについては、(すべての行為と同様に)予測できない結果がいつ出るか、それが良いものか悪いものか、誰も知ることができない。》 《象徴的な意味では、この賭けとは、創造、「ビッグ・バン」であって、それ「以前」のすべてが偶然であったのかどうか、今日なお明らかではない。》 ![]() ![]() ![]() ![]() フランソワーズ・モレルによる解説はすこぶる明晰でマラルメもびっくりというくらいマラルメの著作から関連する言葉・記述を拾ってきて、それこそ一つのうごめくような星座を描き出している。労作。なかでひとつだけ気になったのがつぎのくだり。 《多様に変化する現実の多少は眼にすることができる現象を思考するに当って、言語は思考の細部にまで入り込むことを可能にする優れた道具である。「訶[ママ]般若波羅密大明呪経」には、「言葉が止まるとき、/思考の機能も同じように消滅する」と述べられている。人は言葉によってしか考えることはできない。》 ここで触れられている『摩訶般若波羅蜜大明呪経』とはいわゆる『般若心経』(玄奘訳『[仏説摩訶]般若波羅蜜多心経』)で羅什訳を前者の名称で呼ぶ(テクストの内容はほぼ同じ)。フランス語では『Le Sūtra du Cœur』(心経)。漢訳および梵文からの和訳を参照してみたのだが、「言葉が止まるとき、/思考の機能も同じように消滅する」に当る文章は見当たらないように思う。あるいはこの部分か? 《En conséquence, Sharipoutra, dans la vacuité il n'y a ni forme, ni sensation, ni identification, ni facteurs composés, ni conscience ; ni œil, ni oreille, ni nez, ni langue, ni corps, ni mental ; ni forme, ni son, ni odeur, ni saveur, ni objet du toucher, ni phénomène mental.》(fr.wikipedia.orgwiki/Sûtra_du_Cœurより) 《是故空中 無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界 乃至無意識界》(玄奘訳流布本) しかし『般若心経』の文意自体が「言葉が止まるとき、/思考の機能も同じように消滅する」にあてはまるような単純なものではなく、それこそマラルメの虚無への一振りに近いもののように思えるのだ。別のテクストなのかもしれないし、別のフランス語訳か註釈書にそのような説明があるのかもしれない。 それはともかく、マラルメが活字風に書き込んだ追加の詩句の書体(いちばん下の図)に親近感を覚える。子どもの頃、手塚治虫漫画のフキダシに書き込まれた手書きのセリフ、その書体をなんとかまねようとしていたことを思い出したりした。
by sumus_co
| 2011-09-01 20:55
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