先日の『小さな蕾』四十八号(一九七二年六月一日)「薩摩磨崖仏」特集号を見ていると山内豊之が「珈琲屋の戯言」というエッセイを書いていた。喫茶店「ぽえむ」チェーンの創始者である。
《私が珈琲専門店を始めて五年になる。
当初、家内と二人で何とか喰べていければいいと思って始めた商売であったが、今日では店数も五軒に増え、従業員も二十名を超えるようになった。》
と書き始め《最近珈琲店をやりたいからと相談に来られる方が大変多い》ために時間と労力を取られて困ると嘆く。さらに店の設計をデザイナーに頼んでマスタープランを出してもらって図面書きを断ったらデザイナーが怒り出したという話になる。この二つの話をアイデアよりも物質を重視する日本人の悪癖としてとらえ、こういう結論を導く。
《他人の知的な財産を充分尊重する気持を持つようになったら、私達一人一人の富、財産や幸福などというものに新しい価値観が生れて、より豊かな、より平和な社会が形成されるのではないかと思うのであるが、その考え方は間違いだろうか。》
《もし、そのような認識が進んだとしたら、少なくとも私は、招かざる客から解放され、仕事は快調に進み、女房も機嫌よく、そして、もっと余裕をもって少しはマシな文章も書けただろうと思うのである。》
山内と言えば『珈琲共和国』という機関誌を田村治芳さんから買っていたことを思い出した。ブログにも書いた(2007-08-24)。
『珈琲共和国』
http://sumus.exblog.jp/7343608

十八、二十二、二十三、二十四号の四冊(月刊、一九七三年六月〜十二月。逆算すれば創刊は一九七二年一月ということになる)。第二十四号巻頭の山内による「コーヒー党宣言」では六千部発行(実売二千)としている。寺下辰夫、伊藤博といった珈琲通の連載もあって熱っぽい雰囲気がムンムン。記事によれば「ぽえむ」のフランチャイズは一九七三年一一月中に二十一店になったというから『小さな蕾』の五軒から考えると二年足らずの間に十六軒増えた計算になる。それは鼻息も荒くなろうというもの。

考えるに、二年前の山内は《最近珈琲店をやりたいからと相談に来》る訪問者に仕事を邪魔されて閉口していた。ところが、ある日、これは商売になるとヒラメいて、その発想を転換した。珈琲店で儲けるのではなくフランチャイズ展開で儲けるという方向へ。アイデアを物質に変えたのである。その勢いをかって本も書いた。著書は以下の通り(NDL-OPAC)。
1. 実録珈琲店経営 / 山内豊之. -- 明日香出版社, 1974
2. 珈琲でまともに儲けろ / 山内豊之. -- 東京経済, 1976
3. コーヒー店戦争 / 山内豊之. -- 東京経済, 1977.3. -- (ビジネス戦争シリーズ)
4. 実録新珈琲店経営 / 山内豊之. -- 明日香出版社, 1983.10. -- (アbusiness)
5. 喫茶店は楽しさ商売 / 山内豊之. -- マイブックチェーン21, 1985.10
『実録珈琲店経営』は昔『喫茶店の時代』を書いているときに読んだ記憶がある。大阪の「食の図書館」で借りた。今、検索してみると、案外入手しにくい本になっているようだ。