
『文筆』昭和十三年九月号(砂子屋書房、一九三八年九月一日)が手頃な値段でネットに出ていたので注文した。「稀覯本の世界」に全冊(?)の目次がアップされているので参照されたい。
文筆 十九冊
http://kikoubon.com/bunpitsu.html
この号は短篇小説特集で十二人が一人だいたい三頁ずつ書いている。衣巻省三、太宰治、石川達三、岡本かの子、外村繁、丹羽文雄、鶴田知也、田畑修一郎、楢崎勤、上林暁、井上友一郎、徳田一穂。どれも粒よりだが、特別に光り輝くものもない。太宰の「満願」は前から思っていた通りチェーホフの短篇よう。上林の「胞衣壷」はうまい。妻の出産を扱って上林の世界に引き入れる。外村繁の「紺屋ヶ関」は蒸気船の「ゴトゴトゴトゴツタンゴツタン」というオノマトペを意識的に使って工夫のある小品だ。この雑誌、今で言えば、出版社のPR誌に当るのかもしれない。ただし定価は二十銭、銀座で飲むコーヒー一杯分とくれば、安くはないか。
山崎剛平の『水郷記』の広告も出ていた。体裁のところに《布製本文和紙》としてあるが、表紙は布製ではなくて和紙。変更したのだろうか。また「随筆集」というのもちょっと違うだろう。小説と随筆である。まあ、随筆にかなり近いスタイルの小説なのだけれど、どう読んでも小説である。随筆は尾崎一雄に関するもののみ。ちなみに『水郷記』の定価は一円六十銭。

先日『水郷記』の検印が竹根だという話題が出た。砂子屋書房のロゴもどうやら竹根の印のように見える。ただこの形なら石であってもおかしくはないが。

ついでに
山口青邨『草庵春秋』(龍星閣、一九四三年一月二〇日)の検印を。なかなかの作。

もうひとつ高村光太郎『某月某日』(龍星閣、一九四三年四月二〇日)。これも形は竹根。この刻字は高村ですよね?

それにしても初刷二万部とは……さすが高村光太郎。