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夏_b0081843_21102367.jpg

ブルーノ・タウト『忘れられた日本』(篠田英雄訳、創元文庫、一九五二年九月一五日)。「夏」より。

《七月も日を重ねるにつれ雨は次第に少なくなり、やがてまったく降らなくなった。農民達は稲田の水不足を喞ち始めた。寒暖計は屋内でも正午には摂氏の三十度を越している、八月でさえこれ程ではあるまいと思われるような暑い日が幾日も続いた。夜になっても、もう涼しくない。夜と昼との温度の差は、ますます少なくなった。》

《私は日本の夏の厳しい暑さというものを何遍となく聞かされていた、その夏がとうとうやって来たのである。日本に滞在している外人達は大抵、浅間山麓の避暑地軽井沢に出かけて行く。私達も、軽井沢へ来たらと度々すすめられた。しかし私達は、もともと避暑地というものを敬遠していた、それに社交的な義務までが加わっては耐らないと思った。》

《一度行ってみた軽井沢の本通りは、世界漫遊者の『趣味』に合いそうな商品を並べたてて、まるで横浜や神戸の出店としか思われない。そんな風で軽井沢には少しも心を惹かれなかった、それどころか外人として日本人だけのなかに住んでみたい気持の方がますます募ってきた。》

そこでタウト夫妻は伊豆のとある漁村へ出かけることに決めた。

《この村は、東京の西南方に位する伊豆半島にある。伊豆は日本の『リヴィエラ』だ。緑の森林に蔽われた山々は海際に迫り、海はまた嶮崖と静かな入江との見事な交錯をつくりだしている。》

七月半ばから九月初めまでをここで暮らし、夕方はよく海水浴に出かけた。当時、日本では戸外で半裸体になると二十銭の科料をとられたそうだが、伊豆の漁村ではそんなことを意に介するものはいなかった。

《仕事をしている漁師も若者も全身栗色に日やけしている。女達もキモノの胸をはだけて乳房を涼風の弄ぶにまかせ、見せかけだけの道徳などはどこかに置き忘れてしまっているかのようである。》

《暑熱は、家のなかの日蔭でさえ四十度にも昇ることがある。全身は汗にまみれ、手の甲にはいつも汗の玉がにじみ出ている。私でも妻でも、何かしようとすると汗は容赦なく流れ落ちてくる。そこで今までとは違った仕事の速度が必要になってきた、ーーそれはゆるゆると勤勉であること、つまりいらいらしまいとするなら『ゆっくり急ぐこと festina lente』である。》

タウトは一九三三年から三六年まで日本に滞在していた。当時の日本の人口はおおよそ現在の半分くらいではなかったか。むろん自動車の数も圧倒的に少なく、各戸にクーラーを備えているような状況からはほど遠かったであろう。それでも《日蔭でさえ四十度にも昇る》ような暑い日があった。よく、昔の夏は去年や今年のように暑くなかったというけれども、さて、それは本当なのか、疑いたくなってしまう。

『ゆっくり急ぐこと festina lente』は初代ローマ皇帝アウグストゥス(Gaius Julius Caesar Augustus)のモットー。スエトニウスの『ローマ皇帝伝』に出ているそうだが、アウグストゥス(オクタウィアヌス)は若年より病弱で、疲れたら休んで無理をせぬ生活を心がけたため、八十七歳という長寿を保った(紀元前後のお話ですぞ)。文字通りゆっくり急いだのである。
Hâtez-vous lentement !
by sumus_co | 2011-07-13 22:15 | 古書日録
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