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林蘊蓄斎の文画な日々
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山中独膳

山中独膳_b0081843_2040096.jpg

小林勇『山中独膳』(文藝春秋、一九七一年第二刷、装幀=著者)。メリーゴーランドでは古本販売もしてよろしいということなので、放出する本を選んでいると、久しく手に取っていなかったこの本が現れた。小林勇は丁稚として岩波書店へ入社し、会長まで上りつめた。幸田露伴や寺田寅彦に愛されたユニークな人物でもあり、文も絵もよくした。

小林のエッセイは『芸術新潮』連載を最初に読んで以来、直裁な表現が気に入って、単行本を何冊も集めた時期があった。このブログをはじめたころには興味が移っていたので、ここではほとんど小林の著作には触れていない。晩年、本気で絵画に打込んでいた小林は個展を何度も開き、画文集も刊行している。歿後には絵手紙集もあって、それだけは紹介したことがある。

『小林勇 娘への絵手紙』(アートデイズ、一九九七年)
http://sumus.exblog.jp/12702326

この絵手紙本は『いまそかりし昔』の著者、築添正生さんから頂戴してもので、ヘビースモーカーだった築添さんの書斎に長らく置かれていたのだろうか、煙草の匂いがしみこんでいた。今思えば、蔵書などをそろりそろりと整理されていたのかも知れない。築添さんは小林勇の娘小松美沙子さんと親しくされていたようだ。小林が岩波書店から一時期独立して鉄塔書院を経営していたころに発行していた雑誌『鉄塔』全冊のCD-R版を扉野氏からもらって、紹介したいと思いつつ、まだ果たしていないが、それも築添さんと小松さんとの関係からもたらされたものだろう。

『山中独膳』からぜひとも引用しておきたいことがある。本書は食雑誌『甘辛』連載の文章と一九七〇年夏の軽井沢での日記によって構成されており、標題通り、飲食のことが中心に書かれているが、そのなかに「ありがた迷惑」という一文があって、いろいろと腹の立つことが列挙されている。

 うまい寿司を醤油につける。醤油など出さなければいい。

 天麩羅屋で指図される。「まず塩であがってください」などと。

 汚くても旨い店が好きなのに、キレイな店にばかり案内される。

などであるが、同感するのは次のありがた迷惑。

《南部の置きつぎという言葉がある。これは南部の女は親切で、気のつかないうちに置いてある盃にそっと酒を満たしてくれるというので、嫌がっていう言葉ではない。この言葉はいいひびきを持っている。女の仕草も悪くない。ところがビールは、つぎ足しをされたり、置きつぎをされたら嬉しくない。ある夏、渡辺一夫、都留重人の両先生に従って東北を歩き、松島のホテルで昼食を食ったことがある。そのとき給仕の少女はしきりにビールの残っているのに黙ってつぎ足した。私は注意をしたが、少女は相変らずそれを続けた。ありがた迷惑のことだ。都留教授が憤然としてやめなさいといった。それからビールは飲み干すまではつぐものではないと物しずかに教えた。少女はよくわかったようであった。》 

東北の少女となっているが、宴会などにおけるビールのつぎ足し、これは日本全国どこにでもある悪習だし、年齢性別にも関係はない。コップの底に残っているビールに新しいビールを注ぐ、いや、ほとんど飲んでもいないビールにまで注ごうとして瓶を持って構えている。なんとも悪趣味な習慣である。ビールに限らず酒は自分のペースで飲むものだ。

小生はほぼ絶対に他人の盃に酒もビールもつがない。過去には習慣的にあるいは場所柄によってついだこともあったが、最近はいつでもどこでも信条としてやらないようにしている。しかし注がれるのを制止することはできない、これが困りものである。ま、昨日の孤島における同じ背丈論理で行けば、全員同じように飲んで同じように酔っぱらわなければならないという宴会作法なのだろうけど。

《世の中にありがた迷惑のことはたくさんある。その中でも、頼まぬ先に料理に手出しされるのは、ありがた迷惑の王様である。》
by sumus_co | 2011-07-02 21:39 | 古書日録
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