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書物の灰燼に抗して

書物の灰燼に抗して_b0081843_21505715.jpg

四方田犬彦『書物の灰燼に抗して 比較文学論集』(工作舎、二〇一一年四月二〇日、エディトリアル・デザイン=宮城安総+佐藤ちひろ)を読了。自伝である『歳月の鉛』(工作舎、二〇〇九年)では同じ時代を生きたという気にさせられたけれども、この二十年間になされた「比較文学についての紙[ルビ=ペーパー]」をまとめた本書にも同じ思いを抱いた。むろん著者の該博な世界文学・思想への知識にはついてゆきかねる部分が大半なのではあるが、それでもやはり、その基軸を映画に置いていることと、美術家への言及が少なくないという点で当方の琴線に触れるところも大いにあった。

まずは「ノスタルジア」の考察におけるタルコフスキー。小生も大学時代以降ずっとタルコフスキーを観てきたのでタルコフスキー抜きでは映画体験は語れない。続く「死の領分」ではカントル、ウォーホル、グリナウェイ、キーファを繋いで行くのだが、たしかにカントルの西武美術館での展覧会は忘れ難いものだったし(そのとき来日したカントルに著者は長時間のインタビューを行なったという)、ウォーホルはいわずもがな、キーファの回顧展は京都でも開催され、その鉛色の大作には唸るほかなかった。とくにカントルとキーファの人生と作品の分析には教えられることが多い。

「変容する琵琶法師」でアルトーの芳一とゴッホへの執着の根元を突き止め、「パゾリーニ、封印を解く」ではパゾリーニのパウンドへの傾倒を軸に映画作家としてのパゾリーニではなく、マルチタレントぶり(著者は寺山修司と比較しているが)、とくに詩人としてのパゾリーニに焦点を当てて詳しく説いているのが新鮮だった。「怒りと響き」では映画と文学の相互的な影響関係を論じ、セネガル出身の作家・映画作家センベーヌ・ウスマンの非回宗への闘いに触れる。「泉と同じ数だけの聖者」ではル・クレジオの創作の根元、モロッコの魅惑を披瀝してくれる。「黒いホメロス、ホメロスの不在」ではカリブ出身の詩人デレク・ウォルコットとパレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュを対比させながら「分析(analyse)」という言葉の起源をオデュッセウスの冒険に結びつけて手品のように解いて見せてくれる。「書物の灰燼に抗して」ではサラエヴォの廃墟と化した図書館を前に二通りの文学者に思いをはせる。すなわち《秩序宇宙の創造者と、完成を欠いた星座を残す者》。これら二者の対立を説きつつ最後には「書くことの無根拠」に取り付き「事後性」(事後においてこそ物語が成立するという原理)なる鍵でもってそのエニグマをこじ開けようとする。

まあ、それにしても著者の種々な事象についての明解なる定義には脱帽する。たとえば『ユリシーズ』について、

《誰もが知るように、ジョイスは『ユリシーズ』において、『オデュッセイア』の大冒険をダブリンにおけるわずか一日の出来ごとに圧縮変形させた。みずからも亡命者であったジョイスは、崇高なる英雄叙事詩に俗悪なる庶民の卑小な欲望を対応させ、そこから植民地統治下における言語と文化の状況を浮彫りにしてみせた。》

なるほど。あるいはアドルノのエッセー擁護に関する部分。

《エッセーとは試み書きである。エッセーにもし方法があるとすれば、それはあらゆる方法論に反抗することでしかない。対象をめぐる解釈はときに過剰な解釈であったとしても、不都合ではない。その対象の内側に潜在的に隠されている諸要素を引き出し、それらをして自然と語らしめる術こそが、エッセーにおける解釈の権能なのだ。エッセーはこれまで論じられてこなかったものを意図して対象に選ぶことで、そこで獲得された認識を古い枠組のなかに差し戻すのではなく、枠組のあり方そのものを審問にかける方向へと向う。》

また世界観までもきわめてコンパクトにまとめてみせてくれる。

《われわれの住む世界が統合的な観念を喪失し、コスモスとしての秩序から見離されてしまって久しい。世界は唯一の中心を喪失した後、いたるところが中心となるといった汎神論のユートピアに向うことに挫折した。インターネットと英語を携えた、ただ均質にして深さを欠落させた空間だけが地上を支配している。だがそれは空間的なあり方に限られているわけではない。空間において体験されたことは、残酷なことに時間においてもより逃げ場のない形で体験されている。》

この明瞭さがかえって危ういような気さえするのだが、そんな懸念を吹き払う大陸もジャンルも時間軸をも横断する貪欲な知の働きには畏れ入るしかない。そしてそればかりではなく、まさに著者自身が次のように書いている通り(直接にはエドワード・サイードについてではあるが)、著者の故郷喪失感、ノスタルジアを思わしめる。

《比較文学とは自分の出自を追放された者が、故郷と自国語を相対化するためになしうる、弱者の知的営為だという真理に気がついたのである。》

装幀というか造本のこだわりも工作舎ならではのもの。グロス(つるぴか)なジャケット用紙が文字通り光っている。
by sumus_co | 2011-05-04 21:52 | おすすめ本棚
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