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ナジャとお雪

ナジャとお雪_b0081843_20442361.jpg

今日は荷風忌。昭和三十四年四月三十日朝、市川市八幡町の自宅で死んでいるのが見つかった。胃潰瘍の吐血による心臓麻痺と診断されたという。七十九歳に余ることおよそ五月。

このところアンドレ・ブルトンの『ナジャ』をガリマールのフォリオ(一九八四年版)で読んでいたのだが、ようやくに読み終わった。和訳はたしか二十年以上前に途中までトライして、その後、古本屋に売り払ってしまったので、内容はほとんど何も記憶していなかった。ブルトン一流の分かり難い文章(主語がとらえがたく、まるで日本語の古文を読むよう)、とはいってもエッセイなので、なんとか読み終えられた。墓参りまでしておいておかしな話だが、ブルトンは著述家というよりもコネスール(目利き)として存在感のある人物と思っているので読破の必要性を感じなかったのだ。読んでみてあらためて気づいた、これはまるで墨東綺譚じゃないか!。

もちろん荷風が墨東綺譚を擱筆したのは昭和十一年で、ナジャよりも八、九年も後のことになる。しかし似ているのだ。まず何より、二人は街をよく歩いている。歩きながら観察している。ちょっと前に流行ったフラヌール(flâneur、散歩好き、のらくら者)という言葉がぴったりの人種である。

On peut, en attendant, être sûr de me rencontrer dans Paris, de ne pas passer plus de trois jours sans me voir aller et venir, vers la fin de l'après-midi, boulevard Bonne-Nouvelle entre l'imprimerie du Matin et le boulevard de Strasbourg.

ボン・ヌーヴェル大通り、「マタン」の印刷所とストラスブール大通りの間で三日以上私(ブルトン)に出会わないということはないだろうというような意味。「マタン」は新聞紙。ポワッソニエール大通りにあった。一九一〇から二〇年頃には百万部を越える勢力を誇っていたが、ちょうどこの時期、一九二〇年代の後半には部数が激減していた。一九四四年に廃刊になっている。いずれもパリ市内東北部(十区)東駅からサンドニ界隈ということになる。そのあたりを毎日のように目的もなくぶらついていた。芝居や映画を観たり、蚤の市をひやかしたり、廃墟をぶらぶらしたり。

一九二六年十月四日の夕方、ブルトンはユマニテ書店でトロツキーの著書を買った後、ラファイエット通りをたどってオペラ通りへ向っていた。ちょうど仕事の引け時でサラリーマンたちが帰り支度に忙しかった。とても革命なんぞは起りそうもないようすだ。ある交差点で、こちらへ向ってやってくるみすぼらしい身なりの若い女と目が合う。その目に惹き付けられて、声をかける……とこれがナジャとの出会いだった。ナジャはロシア語ナジェージダ (надежда 希望、期待)を縮めた呼び名である。そしてこの不思議な女性との不思議なつき合いが始まる。

荷風がお雪と出会ったのは六月末の夕方。その日、荷風は小説の舞台にしようと浅草から玉の井へ街を観察に出かける。すると

《あたりが俄に物気立つかと見る間もなく、吹落ちる疾風に葭簀や何かの倒れる音がして、紙屑と塵芥とが物の怪のやうに道の上を走つて行く。やがて稲妻が鋭く閃き、ゆるやかな雷の響につれて、ポツリポツリと大きな雨の粒が落ちて来た。あれほど好く晴れてゐた夕方の天気は、いつの間にか変つてしまつたのである。》

だが、荷風はあわてずにいつも持ち歩いている傘を拡げる。

《いきなり後方から、「檀那、そこまで入れてつてよ。」といひさま、傘の下に真白な首を突込んだ女がある。油の匂で結つたばかりと知られる大きな潰島田には長目に切つた銀糸をかけてゐる。わたくしは今方通りがゝりに硝子戸を開け放した女髪結の店のあつた事を思出した。》

というような馴れそめで、女の仕事場に毎日のように出入りする仲となるのである。
by sumus_co | 2011-04-30 20:52 | 古書日録
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