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本の立ち話![]() 小沢信男『本の立ち話』(西田書店、二〇一一年三月六日、装丁=臼井新太郎装釘室)読了。小沢さんの書評、解説、跋文、読書随想の類いを三十余篇まとめた書評集、で間違いないのだろうが、先年みすずから出た『通り過ぎた人々』同様に小沢さんを通過した人たちがじつにいきいきと描かれた列伝のようなおもむきでもある。 短い挿話が見事に人物をえぐり出す。例えば、ラブミー牧場へ深沢七郎を訪ねた話(片手斬り挿話)、本多秋五と平野謙とともにアルメニアを訪れた話(エレヴァンの坂道で)、なごや豆本の亀山巌と多田道太郎の関係、橋本夢道の中吊り広告「みつ豆をギリシャの神は知らざりき」と小学五年の小沢さんの関係、秋山清のアケスケぶり、辻征夫とのかけがえのない友情、そして「『わが忘れなば』七千円!」。 七千円の『わが忘れなば』(晶文社、一九六五年)は花田清輝宛の小沢さん献呈署名入りの本、しかも「書き込みあり」! 《大枚七千円だして買った人がいるぞ、という噂がとどいた。古本趣味の読書家たちが、それぞれのブログを覗きあう電子的全国交流空間があるらしく、そこからの情報でした。 問題の書き込みが読みたさに財布をはたいて、いざ手にしてみれば、それは傍線のみであったという。傍線に茫然としたかもしれないその人は、かの奇書揃いのウエッジ文庫の編集人、服部滋氏でありました。》 わが忘れなば——小沢信男と花田清輝 http://d.hatena.ne.jp/qfwfq/20070503/p1 古本についての一文も収録されている。「敗戦と古本」(『学燈』二〇〇三・九)。 《昭和二十年の敗戦前後に、毎月、本が何冊か買えた。もっぱら古本で、あんなにすばすば買えた時期は前後に例がなかった。 古書店の棚も充実して、いくらでも掘り出し物がある時期だった、のだろうと思う。なにしろ疎開さわぎで東京中が浮き足立っていた。》 《あいにく私は偏頗な文学少年で詩にばかり熱中していた。室生犀星から萩原朔太郎へ、四季派の詩人たちへ。棚に朔太郎の文字をみただけで胸がおどった。 『虚妄の正義』昭和四年十月十五日発行、初版千七百部、定価二円五十銭、第一書房刊。この函入り美装本にめぐりあったときの幸福感が、あれから五十八年すぎたいまも、ほのかに思いだせそうな気がする。》 当時小沢さんは就労動員学徒として大崎の明電舎で働いていた。月給が皆勤で五十円(半額が現金支給、残りは天引貯金)だったそうだ。これはほぼ小学校教員の初任給に相当する。小生、いつもならコーヒーと比べるのだが、この時期は豆の輸入が途絶えて一杯五円という破格の値段だった(『値段の風俗史』朝日文庫による)。 《あの時期、および前後をふくめて買い溜めた詩書の類を、いまの私はほとんど持たない。戦後の現代詩の趨勢になじまず、わりあいはやくに散文へ、関心が移ってしまった。 若い時分は身一つで家をでたこともあり、そのごも何度か引っ越した。売ったり,譲ったり,置き去りにしたり、詩集はときにあんがいな値になって損はしていないはずだけれど、それやこれやで貧しい私の書棚は、たえず入れ代わってこんにちにいたる。少年時に求めた本が、それでもほんの多少は残っているのは、川底にからむ藻のたぐいか。 あの敗戦の時期の入手にかぎれば『虚妄の正義』『詩の原理』のほかには、たぶん室生犀星『第二愛の詩集』があるくらいだ。大正八年五月五日発行、正価金壱円五拾銭、文武堂書店刊。恩地孝四郎の装幀で、函もカバーもない。さほど高くはなかった気がする。 それほどの愛蔵本というよりも、残ったのは偶然かもしれない。犀星のものならば『抒情小曲集』アルス版のほうをこそ、糸目がほつれるほどに耽溺した。土運び中の代々木八幡の古書店の店先で、これはみつけた。ピンクの布装の手触りさえ忘れかねるその本が、いまはない。 そのほか……いや、消えた本の名をならべてなんになろう。ただ、身辺を通りすぎた雑多な本の流れのなかに、なぜか、ふと思いだされてしまう何冊かがある。 そのとき、なにかが胸をかすめる。悔恨、というよるも内緒めいた傷み。要するに書物は、印刷された内容だけのことではないのですな。その一冊にかかわるあれやこれやのなつかしさは、あたかも遠い日の女ともだちに似ている。》 う〜ん、この書きぶりが好きだなあ。 西田書店 http://www.nishida-shoten.co.jp/index.html 本はねころんで「小沢信男著作」 http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/
by sumus_co
| 2011-04-11 21:27
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